みとりや:京終みとりの冥府よろず案内

水原麻以

period:1 異郷の鬼

みとりや:京終みとりの冥府よろおかっぱの少女がぺこりと頭を垂れる。艶やかな後ろ髪に毒々しい虹がかかる。盛り場はこれからお楽しみの時間だ。

「カタチあるモノはくずれ、生まれた命は死んでいきます。うつろいは世のありようです。受け容れてください」

革靴からアスファルトに一番搾りが流れ落ちる落ちる。

「おま…それを言うか」

泡だらけのワイシャツに上腕三頭筋が盛り上がる。

「ものみな全て、流転のなかにいきています。ですから…」

紺色セーラー服すがたの彼女は目じりを潤わせる。瞳のなかで拳がみるみる拡大する。

「うホッ☆」

次の瞬間、斜め右下から茶色い悲鳴が飛んだ。ビールもしたたるサラリーマンが大の字にひっくり返り、山のような影が覆いかぶさる。

「みどり、こっちよ!」

虹京都三条の裏路地。舞妓やアングロ人がごった返す小道を濃紺の蝶が翔け抜ける。前を扇動するポニーテール、あたふたとリボンを揺らす黒髪。すうっと視線を引くとT字路で巨漢とビールまみれの男が殴り合っている。

「この野郎!」

「ボケ野郎! 俺は痴漢じゃねえ! 被害者だ」

「だったら、手に持ったそれはなんだんだよ。あーン?」

締めあげられたネクタイが半径を狭めると、右手から首だけのビール瓶がすべりおちた。カシャンと力なく転がる。あっという間に人だかりができた。

「お巡りさん、コイツです。こいつが俺の首を」

リーマンの主張がシャッター音とフラッシュに埋もれていく。

「みどりが素直にごめんなさいしないからよ」

立て看板の陰でポニーテールが叱りつける。

「みとり…よ。いい加減におぼえて!”アガシ”さん」

アガシの名で呼ばれた娘は露骨に嫌な顔をした。

「わたしは生田あかし。上甲陽園高校三年生。当たり屋おんなに説教する役職じゃありません」

「アガシって自分でプロフに書いてるじゃん」

みどりはスカートの土を払った。

「さとし屋はとっくに廃業したわ。だって目の前で飛び降り自殺をとめれなかったんだもの」

悔しそうに京の夕暮をあおぐ。


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