京終みとり

暮れなずむ街から青がみるみる駆逐されていく。等間隔の輝きがガタゴトと運ばれていく。月を刻んでレーンにのせたようだ。

京終きょうばてみとりは三味線の伴奏に紛れて古びた長屋に近づいた。引き戸にくくりつけた郵便受けがボロボロに錆びている。ただ小まめに使われているらしく今日の夕刊が刺さっていた。

「民泊の証票が貼ってあるけど怪しいもんだわ」

消音アプリを起動して証拠を撮る。生田あかしは芦屋のお嬢様らしくクレジットカードより薄くておしゃれな端末を透かしている。手のひらサイズの液晶が物件情報で埋め尽くされる。

「虹京都観光協会と民泊振興会にはちゃんと登録されてるみたいね」

みとりのスマホに詳細データがドロップされる。道を挟んで小さな鳥居があり、草木が無造作に茂っている。奥はもう暗くて何も見えない。

「籠ってそう」

「素人はたいていそういうわ。さとし屋の苦労も知らないで」

確かに「何か」が出そうな雰囲気ではある。だが、あかしの経験がきっぱりと否定した。

「辞めたって言ったじゃん」

「あんた。今日会ったばかりなのにズケズケと物を言うわね」

「終わること、終わらせること、終わらずを終らせることを忘れるるべからず。みとり屋の鉄則。三歳の頃から母に叩き込まれたわ。しょうぶんなの」

みとりはビシッと人差し指を突きつけた。

「はいはい。その勢いで”ステイながみね”を片付けてちょうだい」

元さとし屋は主導権を丸投げする事にした。餅は餅屋だ。

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