逃走


「莫迦莫迦しい!」

生田あかしは態度を一変させた。その強硬ぶりは恐慌を隠すための強がりだろう、とみとりは見抜いた。だが、放置した。

「否定するのは勝手だけど、現にわたしたちは攻撃されてる」

「ハッ!? あんたが狙われているかもしれないのに? それとも、自演かしら」

早口でまくし立てる。

「あなた、ブルってるじゃん」

みとりはそっと手を差し伸べた。

「”異郷の鬼”だなんて。そんなの、鬼をとやかくいえるか!」

怒りで体が沸騰しそうだ。みとりはあかしの両肩をつかんだ。

しかし、彼女は手の甲であかしのほおを叩き、黙らせた。


「とにかくさ、こんなところで突っ立ってる暇があったら早く出ましょう。ね?」

この娘から放たれる圧力をみたあかしは、はらわたが煮えくり返る思いがした。だが、あかしに拒否権はなかった。

その時だった。ステイながみねの方から「どぉん!」という音が聞こえて来た。ビリビリと公園のベンチが揺れる。みとりは表情を強張らせた。「鬼が来たわ」

あかしも目をこする。すると、あかしがはっとして叫ぶように言った。


「早く行くわよ!」

彼女の顔、いや、顔だけが、みるみるうちに青くなっていく。みとりも彼女の後姿に向かって走った。




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