素人作家の主人公・紫桃は、妖を寄せ付ける体質を持った友人・神路祇(通称、コオロギ)から不思議な体験談を聞き、ホラー小説を書いている。
ホラー小説の魅力って何でしょう?不運な出来事、バッドエンド、恐怖の展開、後味の悪さ、ドキドキ感やハラハラ感。だけど紫桃の書くホラー小説はなぜか怖くなく、コメディになってしまうという…
とても面白かったです!読者を意識した独特な文章で不思議な読み心地を味わえます。エッセイのような雰囲気もあって、紫桃の思考をのぞいている感じです。
普段はふわふわした空気感を持っているコオロギですが、読み進めていくと意外な一面がたくさんあって、その人柄がクセになります。紫桃のツッコミもテンポ良くて好きでした。
また、幽霊というモノに対する解釈なども非常に興味深く、すごくワクワクさせられます。ゆるく、楽しく、サクッと読める、不思議な物語。ぜひ読んでみてください!
オカルト小説書きの主人公・「紫桃」と、そのネタ元の友人「コオロギ」のやり取りを描いた怪異譚。
先ず、この作品の良さはより日常に近いことですね。明らかな創作となるとファンタジー色が強くなりますが、よりリアルでほんのりと残る不思議さが魅力として描かれています。
会話形式で進む物語は怪異が面白いだけでなく紫桃とコオロギのやり取りもまた魅力……。そして、起こる怪異もまた身近な為に世界観に入りやすくなっています。
怪異を感じない主人公の目線からの考察で進むので、視えるコオロギの行動や意見が“成る程”と感じさせるのが巧みですよ。
そして何処か穏やかな流れが続編を期待してしまいます。ネタバレになるので書きませんが、今後の展開に期待するのはオカルトのみにあらず……楽しむ為の複数のポイントはご自身の目で確認して頂きたいですね。
このホラーは、タグに『怖くない』とあるように普通のホラーとどこかズレている。
追い詰められ、背筋がゾクゾクするようなジャパニーズホラーでも無ければ、ゾンビが物陰から飛び出してくるような洋物ホラーでもない。
神主も宮司もエクソシストも神父も出てこない。
登場するのは、我々とは少し違う世界を認知できる能力を持ったコオロギと、コオロギと出会ったことでホラーの世界にどっぷりとハマり自ら筆を取るまでに至った主人公の紫桃。
この2人が、酒や肴を突きながら「ちょっと不思議な話」を語っていく本作。
軽妙な語り口で綴られる奇譚はもちろんだが、私としては2人を通して語られる「幽霊が視えるとはどういう状態か。そもそも異能(霊能力)とは何か。動物霊の見分け方とは」などといった、作者なりの考察が面白い。確かに、物を見る原理は既に解明されているにも関わらず見えるものに差異があるのは不思議だ。
その「不思議」に蓋をせず、自分なりの解釈をもって物語に落とし込む姿勢は、ホラー小説の隅っこに生息している自分も参考にしていきたく思う。
また、物語が進んでいくうちに微妙に変わっていく登場人物2人の関係性も心地良い。
本作中で主人公の紫桃も語っていたが、社会に出ると心の底から遠慮なくあけすけに付き合える友人と出会えることは少ない。
また、価値観が広がることで友人で無くなることも、ままある。
そんな世知辛い現代社会の中で出会い、友人として酒を酌み交わす彼らは互いにかけがえのない存在なのだろう。その雰囲気が端々から伝わってきて、読んでいるこちらまで温かい気持ちになる。
ホラーという「現代社会に存在する異世界」に興味はあるけど怖くて読めない人、あるいは主人公と同じように「ホラーが書けない!」と悩んでいる人。
ホラーに悩む人々にこそ、この作品は読んでほしいと思う。
数多の怪異現象を体験してきた友人・「コオロギ」に、ホラーな体験談を語るように頼む主人公・紫桃。
彼はホラー小説を書いていて、そのネタ集めのために友人の体験談を集めようとしているのです。
ところが、コオロギの人柄か、語り口か、それともコオロギにとって怪異な体験が日常茶飯事だからか。
確かに、不思議な超常現象の話をたくさん聞いているんだけど。
どうしても、「怖い」ホラー小説にならない……!
数々の不思議なエピソードを語り語られながら、二人のちょっぴり奇妙な友人関係がとてもいい味を出しています。
互いに色々な人生を歩んできた身。でも、ここにとてもいい人間関係を見つけているな、と羨ましくなります。
日常的な話も、非日常的な話も。
両方ひっくるめて、とても興味深い楽しい作品です。
(ジャンルはホラーではなく、現代ドラマです)
ちょっと変わった二人のお話。ゆったり過ごしたい夜にでも、ちょっと覗いてみませんか?
主人公の男性は、ホラー小説を書くのが趣味だ。そんな主人公に毎回恐怖ネタを提供してくれていたのが、職業訓練校で出会ったコオロギという友人だった。
毎回語られるコオロギの不思議な体験を聞いて、主人公は今日もメモを取る。どうやら本物の妖とは、匂いであったり、触覚であったり、五感に訴えるものが多いらしい。つまり、「○○の妖怪」だとか、グロテスクな死体とか、祟りだとか、呪いだとかではなく、とても日常的であると言うことだった。
そんな人とは一線を画す日常にいるコオロギに、主人公は惹かれていた。
そして、ホラー小説を書いている自分を見直して、ふと、思った。日常を妖に脅かされているコオロギは、本当は妖のことなんて、思い出したくもないのではないか? 自分はコオロギに酷いことをしているのではないか?
主人公はコオロギにそのことをきいてみると、意外な答えが返ってきた。
コオロギがいつも自分だけが感じていた妖について語る時。
それを主人公と共有できた時。
果たして二人の関係に変化は訪れるのか――?
ホラー小説ほど恐怖感はありませんが、これが本当の怪異と呼べるのではないかという、不思議でちょっと不気味な感覚が残ります。
読みやすい文章で、ネオンのもとを歩く二人の雰囲気が好きでした。
是非、御一読下さい。
「ワイ、ホラー作家なのに、ホラーが書けない……」
→「せや! ホントのこと(創作の舞台裏)を書けばええんや!」
以上が、素人ホラー作家・紫桃(しとう)の悩みと、その結果、行きついた結論です。
※実際の紫桃さんは関西弁を使いません。
で、その創作の舞台裏=ホラーのネタを提供してくれる友人、霊感のあるコオロギさんへの取材の状況、主に飲み会のシーンが描かれていて、これが結構楽しいです。
このお話がホラー小説である、ということを忘れるくらい楽しい……ですが、そのおかげか、時折挟まれる「ホラー小説」の怖さが増すのは、私の気のせいでしょうか。
あと、コオロギさんの霊感話も、取材という形式を採っているので、リアリティをマシマシにした恐怖を与えてくれます……「ホントのこと」って感じが怖いって思うのです。
自分も「何か」に引っ張られるんじゃあないかって怖さが……。
……おっと、そろそろ終わりにしろって引っ張られているので終わりにします。
え? 今、誰が引っ張ったの!?
私はこの作品の主人公である紫桃さんと同じく妖や幽霊は全く見えません。でも紫桃さんと同じくホラーを書くのは好きなのに、実際に自分の身に怖いことが起こったら嫌だ〜!っていう気持ちをめちゃくちゃ共感しながら読んでいます。
そして、そんな紫桃さんの友人であるコオロギさんは視える人。彼女が話す不思議でちょっと変わった妖の体験談で怖い話が描かれたり…一風変わった彼女自身のお話を読めたりと、二人の紡ぐちょっと笑えてちょっと怖い物語を楽しんでいます。
また、神無月そぞろさんの他の短編作品を拝読している方もこれから拝読する方にも「へんぺん。」シリーズを新たな見方で楽しめるようになること間違いなし!まさか、ここで繋がっているとは…!驚きとともにわくわくしました。
ぜひ併せて拝読して下さい!
アマチュアのホラー作家、紫桃(しとう)は友人である神路祇(こおろぎ)からネタをもらい、小説を書いていた。神路祇は正真正銘の霊能力者であり、霊媒体質なのだ。だが、それでも紫桃は彼女をネタにホラー小説を書くことに悩む。
どこかおかしい神路祇に視点を当てつつも、その視点の主である紫桃もやはりおかしい。そんなおかしい二人の日常をどこか引いた目線で楽しめるコメディ作品。
ホラー小説を書きたい人も、読みたい人も、まずはこの作品から始めてみてはどうだろうか。どこか引いた目線で怪奇事件を見守れるようになるだろう。
え? それじゃダメなの? ふーん。じゃあ、まずは姿の見えない相手に腕を引っ張られてみてよ。