霊感こそ、一番身近な異能力だったのかもしれない。

 主人公の男性は、ホラー小説を書くのが趣味だ。そんな主人公に毎回恐怖ネタを提供してくれていたのが、職業訓練校で出会ったコオロギという友人だった。
 毎回語られるコオロギの不思議な体験を聞いて、主人公は今日もメモを取る。どうやら本物の妖とは、匂いであったり、触覚であったり、五感に訴えるものが多いらしい。つまり、「○○の妖怪」だとか、グロテスクな死体とか、祟りだとか、呪いだとかではなく、とても日常的であると言うことだった。
 そんな人とは一線を画す日常にいるコオロギに、主人公は惹かれていた。
 そして、ホラー小説を書いている自分を見直して、ふと、思った。日常を妖に脅かされているコオロギは、本当は妖のことなんて、思い出したくもないのではないか? 自分はコオロギに酷いことをしているのではないか?
 主人公はコオロギにそのことをきいてみると、意外な答えが返ってきた。

 コオロギがいつも自分だけが感じていた妖について語る時。
 それを主人公と共有できた時。
 果たして二人の関係に変化は訪れるのか――?

 ホラー小説ほど恐怖感はありませんが、これが本当の怪異と呼べるのではないかという、不思議でちょっと不気味な感覚が残ります。
 読みやすい文章で、ネオンのもとを歩く二人の雰囲気が好きでした。

 是非、御一読下さい。

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