童話調の語り口で綴られた、今はまだ英雄譚未満なボーイミーツガール

 レビュータイトルにも挙げた通り、この作品の最も特徴的な点は、その語り口。
 まるで抑揚たっぷり情緒豊かな語り部が朗々と語っているような文体は、小説を読んでいるというよりは、絵本の読み聞かせを聴いているような気分にさせられる。
 簡潔な言葉選びにも関わらず、表現豊かな登場人物の描写も、色彩豊かな筆遣いで描かれた水彩画を観ているように、すんなりと頭の中で思い浮かべる事ができる。

 さて、この物語の主人公は、少しばかり向う見ずで力足りないところがあるが義を見てせざるは勇なきなりを地でゆき、世界に名を残す英雄を夢見るハービイだ。
 そしてヒロイン、いやもう一人の主人公と呼ぶべきは、自身を嘘の専門家と嘯きながら伝承の英雄を讃える詩を歌いつつ、いつかは自ら手掛けた英雄譚を世界に知らしめると大望を抱くライライである。

 これは、出会うべくして出会った二人の少年少女が、彼らの彼らによる彼らのための英雄譚を紡いでゆく物語だ。
 
 いまだ英雄への道のりは遠く、彼らの旅は始まったばかりだが、その道程がどんなものとなり、その結末がどこに行き着くのか、見届けられたし。

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