※このレビューでたびたび使用される人類という言葉はオタク特有のクソデカ主語というものです。
さあ注釈もいれたことですし、始めましょうか。この素晴らしき『嘘つき詩人の英雄応援歌(ヒーローズ・アンセム)』のレビューを。まずね、タイトルがいいんですよ、タイトル。ヒーローズ・アンセム。人類はヒーローが好きでしょ?それを嘘つき詩人が応援してるわけですよ。嘘つき詩人って、誰なのか気になりますよね。じゃあ、あらすじいってみよー。
さあ、ここからあらすじを一部引用させていただきつつ、第12話(このレビュー時点での最新話)まで読んだオタクのここが好きポイント語りになります。興味ねーって人はとっとと本編読め、読んでください。
『彼女が愛せる男は、世界を救う仮面の英雄だけらしい。
なら…俺がその仮面を被ってやるよ!』
天才。この時点で嘘つき詩人が女性だとわかりましたね。ヒーロー(候補)は男性です。『俺がその仮面を被ってやるよ!』そうです。この物語はボーイミーツガールなんです。少年が少女のために頑張るんです。そういうの好きだろ人類。
嘘つき詩人の称号からもわかるとおり、ヒロインはかなりの曲者。金髪で角のついた帽子を被った、猫のように挑発的な碧い瞳をもつ少女。名前はライライといいます。これは愛称です。本名とその名前を名乗るまでの由来は本編を読んでね。そして振り回されつつ成長していく主人公はハービィといいます。彼は最初は地位も財産もなく、けっこう困った状況にいるのですが、ライライの助けで窮地を脱し、彼女の英雄を目指すことになるのです。少年漫画ばりに努力を積み上げ、勝利をもぎとり、成長していきます。王道のボーイミーツガールかつ成長譚でもあるわけです。そういうの好きだろ人類。
『なんせ昨今ときたら「もう終末が近い」と噂されるほどに世相が真っ暗でしたので。騎士団を有する謎の新興宗教、各地で暴れる怪物、そして目撃される未知の巨大生命体。どちらを見ても暗い話題には事欠きません。』
この世界観もいいですよね。世界は終わりへと近づいていく不穏な時代なんですよ。そういう世界観で少年少女が英雄譚を創るべく奮闘するわけです。世界観に関しては作中のファンタジー豆知識コラムを読むのがオススメです。しっかりした世界観が読みたいぞって貴方も大満足。少年少女が奮闘すると書きましたが、もちろん手を差し伸べてくれる大人たちもでてきます。この物語の魅力の一つに、善き人と愚かな人と愛すべきクズの塩梅が素晴らしい、という点があります。世界観もキャラクターもいい。そういうの好きだろ人(ry
『黄昏の世界へ向けた希望の応援歌。
歌もまた一つの文学、そして文学とは人生の美醜を極めるものなのでございます。』
何も言うことはありませんね。他のレビュアーさんもおっしゃっていますが、地の文がまた良いんですよ、地の文が。読み聞かせのような優しくてわかりやすくて、でもドキドキハラハラさせてくれる文体。吟遊詩人というライライの職業ともマッチしています。
推しキャラを一人だけ挙げろと言われたら、ラタ・トスクを挙げます。リス人間で怪しい宗教団体の一員で、敵だったのにいきなり「世の中で一番頼りになるのはやっぱり僕みたいな男友達だと思うワケ」とか言ってくる愛すべきクズ(今のところ)。そういうの好きですね、私は。
ここまで読んでくださった皆様。ありがとう。お疲れ様。さあ、本編を読もうか。
レビュータイトルにも挙げた通り、この作品の最も特徴的な点は、その語り口。
まるで抑揚たっぷり情緒豊かな語り部が朗々と語っているような文体は、小説を読んでいるというよりは、絵本の読み聞かせを聴いているような気分にさせられる。
簡潔な言葉選びにも関わらず、表現豊かな登場人物の描写も、色彩豊かな筆遣いで描かれた水彩画を観ているように、すんなりと頭の中で思い浮かべる事ができる。
さて、この物語の主人公は、少しばかり向う見ずで力足りないところがあるが義を見てせざるは勇なきなりを地でゆき、世界に名を残す英雄を夢見るハービイだ。
そしてヒロイン、いやもう一人の主人公と呼ぶべきは、自身を嘘の専門家と嘯きながら伝承の英雄を讃える詩を歌いつつ、いつかは自ら手掛けた英雄譚を世界に知らしめると大望を抱くライライである。
これは、出会うべくして出会った二人の少年少女が、彼らの彼らによる彼らのための英雄譚を紡いでゆく物語だ。
いまだ英雄への道のりは遠く、彼らの旅は始まったばかりだが、その道程がどんなものとなり、その結末がどこに行き着くのか、見届けられたし。