まさに正調。黒い血道を征く復讐劇×ダークファンタジー。

 レビュータイトルの通り、名だたる名作を彷彿とさせる正調ダークファンタジーだ。ダークファンタジーというと、設定が難解かつ過多になりがちで物語の把握が難しいという作品も散見されるが、この作品は比較的シンプルな設定で、より物語への没入がし易いように思われる。
  
 物語はまず、霧に包まれた魔女達の隠れ里から始まる。
 中世の暗黒史──魔女狩りの時代を思わせる迫害から逃れるために、神の教えを説く‘’正教会”と、その教えを信ずる世俗から、自らの存在を霧で覆い隠して隠れ住む魔法使い達の住処。だが、その小さな世界には暗鬱とした気配などなく、神秘的でありながら安寧とした日々が続いていた。
 物語の主人公──スクートは、この隠れ里の外から、この場所へ行き着いた。

 かつて外の世界で絶望に打ちのされて、この霧によって外と隔絶された隠れ里に迷い着き、里に住む魔女リーシュとの出会いによって救われたのだ。
 死人同然だった自分に、新しい名前と生き方を与えてくれた彼女と、一生を添い遂げると誓ったスクート。 
 いつまでもこの幸福と安寧が続くものと思っていた。しかし、スクートが負わされた過酷な運命は、彼を嘲笑うかのように、全てを奪い去る。

 かつて、この世の災厄の象徴であるドラゴンの脅威から人々を守る盾──"聖騎士"として剣を執っていたスクートへ、ドラゴンに流れる呪われた黒血を流し込み、人ならざる身へと貶めた宿敵、"宣教師"ライオネル。
 そのライオネル率いる正教会の魔の手が突如として隠れ里に及び、スクートがようやく手にした安寧の日々と、最愛の人リーシュの命を奪い去ったのである。
 
 スクートもまた、ライオネルの剣に破れて、確かに一度は命を落とした。しかし、リーシュの託した願いと、彼女が嵌めていた魂を繋ぎ留める秘術を宿した指輪によって、スクートは死の淵から蘇る。  
 己の運命を、その定めを与えた神を、そして我が身から人間である事の尊厳、何より最愛の人の命を奪い去った宿敵、宣教師ライオネルへの怨嗟と共に。

 自ら埋葬したリーシュの墓前で、スクートは復讐を誓った。
 かつて、正教会の聖騎士として賜った十字を象る大剣──クレイモア。己の身体に流れる呪われた黒い血を吸い、闇より深く漆黒に染まったその剣を天に掲げて、男は慟哭する。
 黒く染まった逆十字。神を呪うその象徴を掲げて怨嗟に哭きながら、復讐の徒は地獄より生まれ出でたのだ。
 
 まさに王道正調の復讐ダークファンタジーといった冒頭だが、伏線なども多く散りばめられ、多彩かつ深みのある登場人物たちにより、先の展開が待ち遠しくなる作品だ。
 旅路の果てに、スクートは何を想うのだろう。
「この世界を恨まないで」というリーシュの最期の言葉、その願いが汲み取られるのか。それとも、ただ復讐に取り憑かれた剣鬼のままに果てるのか……

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