第弐拾九話 イカ煮記


 魚介が足りていない。

 薄々は気付いていた。でも『第弐拾六話 台所の片隅で本音を綴る作家志望者』(https://kakuyomu.jp/works/16816452219820509966/episodes/16817330648647966576)以降、どうにも食指が動かない。だって、生臭みの素トリメチルアミンをホットクック内に閉じ込めるのはさあ。しかも魚お高いし。いや、今は何でもかんでも高いけど。筆頭、社会保険料、ふざけている……


 ──と思って早や2年。


 ようやっと重い腰を上げたのは、兄のせいである。

 兄はわりにまめで、ずぼら妹を度々驚かせるのだが、先日、鯵の南蛮漬けを作ったのだ。まるごと小鯵さばいて。

 曰く、いきつけ地域民の集まる謎スーパーで安かったそうで、それにしたって面倒じゃないの、いやみんなふつうに魚さばくの、その上、粉はたいて揚げてタレに漬け込んで、野菜も盛り盛り、栄養価満点、盆暮れ正月でもないのに週休二日でも!?


 ようはこうである──鯵の南蛮漬け美味しかった(あと具沢山根菜汁も)、なんかくやしい。


 あと一日耐え忍べばお休みという木曜、値下げ惣菜パン&菓子パンを狙ってスーパーに寄った折り、兄の南蛮漬けを思い出して、鮮魚コーナーに向かった。

 簡単で、映えて、安くて、そこそこ美味しい都合の良い食材ないかな~青魚はまだ抵抗がある、肩慣らし的な……


 鮮魚コーナーでは生のスルメイカが並んでいた。

 生なのにスルメなのかと一瞬混乱しつつも、まるごと一杯のイカと、一杯分が輪切りになったイカが並んでおり、ちょっと迷いつつ、いやラクして元とれが信条と後者をカゴに入れる。ついでに隣にあった鰯のすり身も入れる。いずれも賞味期限週末まで大丈夫。あとは地元直売所でお値打ち野菜を購入すれば良いじゃん、値下げパンもゲット、良きかな。


 土曜の午前は洗濯機を回し、野菜直売所へ行き、大黒仔猫の予防接種へと赴き、知っている人は知っている古賀コンについて想いを馳せたりしてなんやかんやで夕方、錬成に挑む。


 ──アーレ・キュイジ~ヌ! イカと大根と里芋の煮物(by鹿賀丈史)


 とまあ、意気込んだところ、大根の煮物はよく錬成しているので、そう肩肘を張るものでもない。野菜切って、イカの輪切り並べて、調味料入れて、煮るだけ。簡単なお仕事。

 でも、問題がひとつ。大根と里芋の煮時間である。

 今回、里芋は兄が根菜汁を作った時の残りの冷凍里芋を使用。さて、大根と冷凍里芋、別種を同時に煮る場合、時間を調節せねばなるまい。

 冷凍食品はすぐ火が通るイメージがあるけれど、どうだろう。大根は先入れ、もしくは下茹でしておくか、うーん(面倒)。でも、大根生煮え、里芋煮崩れは避けたくい。

 悩んだ末、大根は1センチ弱の薄めに切って、大根、里芋、イカの順番で鍋に入れる。そして顆粒だし、砂糖、みりん、酒、醤油、水100㏄(ホットクックは無水調理がウリだけれど、つゆだく好きなので逆らう)を投入。手動設定でまずは煮物10分でスタート。もちろん、ぜったい、「まぜ技ユニット」は取り付けない。脱・まぜ技ユニット、里芋はデリケート、料理も政治も制度も弱者に合わせるべきなのだ。


 10分後やさし~く手動にて掻き混ぜ、今度は蓋を開けて煮詰める機能でもう10分、キッチンペーパーを被せて落し蓋とする。

 あぶくたった煮え立った、なるほどあぶくがぶくぶくキッチンペーパーに当たってはじけて表面に顔を出していた大根にもまんべんなく煮汁が染み渡る。

 デキアガリの声に、具材をそれぞれ味見。

 イカ柔らか、大根べっこう色、里芋ねっとり、おお、それっぽくできている~!


 イカは加熱時間が長いと硬くなると聞いていたが(byミスター味っ子)、ホットクックだとなんかよくわからないけど柔らかいというレポが散見されていた通り、本当に白く人肌めいて柔らかい。


 さて、おおむね、今回は成功であり、また錬成したいと思う。

 なれど、私はやや不服だった。

 金曜の夜、兄から「日曜、休みだから夕飯やろうか」とのLINEが来た。我が家では夕食は当番制、休みがかぶった場合は交互に代わるという不文律がある。やった、ラッキー! と思ったのも束の間。

 木曜に食材、土日分買ってるじゃん……

 己が購入した食材は己が責任もって消費する、これもまた不文律。

 今回は最初から終わりまで兄に踊らされていた気がする。とまれ、今夜(日曜夜)は野菜たっぷり鰯のつみれ汁です。



 ※スルメイカについて検索したら、水産庁のHP〝イカペディア〟に辿り着いた。個人的にお上の悪ふざけはあまり好きではないけど、読ませる文章でつい読み入ってしまった(>イカ好きの初恋はアオリイカになりがちです、って)。

 次はイカSFかなあ、と遠い目をする。

https://www.jfa.maff.go.jp/j/koho/blog/category/ikapedia.html


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

猫と私とホットクック(KN-HW24E ¥53,880) 坂水 @sakamizu

現在ギフトを贈ることはできません

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ