H・G・ウェルズも拍手喝采の、一大スペクタクルSF物語ですぜ!

 カクヨム界において、常に異彩を放ち読む者の心を揺さぶる小説を描き続けておられる作家、銀鏡怜尚氏。
 新作は『SF』であるとうかがい、思わず「ムムッ!」と唸りました。
 いわゆる空想科学小説です。
 怜尚氏がSFとは……ファンであれば俄然興味を持ちます。
 しかしタイトル「時空を超えて 慈愛を込めて 想いよ届け」を目にしたとき、今度は「ムムッ?」と首を捻ってしまいました。
 だって、怜尚氏の御作品はこれまではどれもタイトルが洒脱で秀逸でしたもの。
 あっ、いえ、決してこの度のタイトルが肩透かしであるというわけではなく、違和感を覚えてしまっていたのです。なんだか違うのではないかなあと。
 ところがどっこい、さすがは怜尚氏です。
 やはりタイトルには深い意味があったのです。
 読了された時に、「なるほど!」と思わず膝を叩くこと請け合いです。
 前置きが長くなりました。
 今作は舞台が異なる二つの物語が交互に展開されていきます。
 このあたりのテクニックはさすがです。
 ノンストレスで読み進めることができます。
 音楽の転調と呼ばれる技法に重ねられます。
 ひとつは宇宙物理学者を主人公とし、もう一方は演技の道を進む女子中学生を主役としています。
 まるで接点のない二人がどのようにして一つの壮大な物語を歩んでいくのか、そこが
見どころです。
 ファンタジーのように作者の脳内だけで創造された世界観ではありません。
 実際の物理学や宇宙工学、そして舞台芸術論や演技論まで勉強なさりそれを物語のバックボーンとされていると想像できます。
 リアリティがそこにはありますから。
 それだからこそ読み応えがあり面白いのです。
 二つの物語が交錯してくる後半は、読んでいて手に汗を感じ、自身の鼓動が耳奥で鳴ってくることがわかります。
 また、キャラクターそれぞれが本当にいい仕事をしています。
 二十六万文字強の超弩級の物語ですが、とにかく感動のラストにはむせび泣きます。
 ハリウッド版スケールのSFとなれば、どなたにもお薦めできる銀鏡怜尚氏渾身の小説、ぜひぜひ、ご堪能ください。

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