「5.紙の歴史」
【紙の歴史】
そもそも紙とは何なのでしょうか?
ノア・ウェブスターは、紙を「いろいろな用途のために、ぼろ切れ、稲麦の藁、木材、その他の繊維質材料で薄くつくった物質」(『古代製紙の歴史と技術』P2~3)と定義しているそうです。
「色々な用途ってなんだ」
大体、「書く」「包む」「拭く」ことじゃないでしょうか。ほら、ダンボール箱とか包装紙とか、ちり紙とか。
「あー、なるほど。日本だと障子とか、住環境に使われるし。折り紙とかで遊ぶしね」
手法としては、
➀材料を粉々(石臼とか水車とかで)にして繊維にし、水に混ぜて絡ませる。
②篩(ふるい)・ザルのような漉具で繊維の薄い層をすくう。
③水を切って乾かす
を、基本として定義するようです。
「牛乳パックでハガキ作った時を思い出すな~。のりも混ぜた気がするけど」
では、紙の歴史を辿ってみましょう。
〈紙がなかった時代〉
Q.世界四大文明を答えよ。
「A.『メソポタミア文明』『エジプト文明』『インダス文明』『中国文明』!」
せいかーい!
……まあ、日本か中国ぐらいしか言わないらしいですけど。
「日本好きだよね、三大美女とか」
『メソポタミア文明』(現イラクあたり)
粘土板。書いた後粘土を焼いたり乾燥させて保存したと考えられる。「タブレット」という言語はここから来ている。
『エジプト文明』
パピルス(水草)の幹(茎?)を薄切りにし、結合させて巻物の形にした。パピルスは衣食住に幅広く使われていた。西洋で紙を意味する語源(paperなど)はパピルスから来ている。
『インダス文明』(現インドあたり)
石板、一部の地方では樹葉。ぶっちゃけ残された文献が限りなく少ない。なお、現代の本のページをleafと言うのは、古代の本が葉っぱを使っていたからと言われている。
『中国文明』
獣骨・亀甲、木簡・竹簡、絹紙(帛書)
亀甲獣骨文字は、後の漢字の原型だと言われている。木簡・竹簡は、細い板に紐を通して一枚の板書にすること。パピルスと似てるような気がする。
「ギルガメッシュ、オジマンディアス、ラーマ、始皇帝!」
FGOから離れようか、作者。
『メソポタミア文明』は楔形文字・シュメール文字、『エジプト文明』はヒエログリフ、中国文明は亀甲文・象形文字が使われていました。
「メソポタミア文明はビール発祥の地とも言われているよね。ビール!」
ビール飲めないじゃん、作者……。
(※ちなみに絹紙は、現在だと掛軸が有名です)
〈中国から東アジアへの伝搬〉
そんな中、紙が誕生したのは105年、後漢の宦官
「あ、その名前聞いたことある」
……と言われてましたが、前3世紀の中国では既に紙の技術があったようです。
「何なの中国」
中国では麻クズが主原料でした。言わばリサイクル。絹と一緒で、その技術は国家機密のものでしたが、2世紀には朝鮮に伝わり、高句麗の僧
「おお、曇徴! 日本史に出てきた」
日本では主にクワ科の
(※近年では曇徴よりも前に製紙の技術が始まっていたのではないかと言われています)
実は現存する最古の木版印刷は、日本にあります。
女帝・称徳天皇によって、吉備真備の指導の下、最初の木版印刷が行われたとか(『百万塔陀羅尼』)。
紙と印刷術は、仏教にーーのちのアラブ世界の発展やグーテンベルク聖書のことも考えると、世界の宗教に深い影響を与えたと言ってよいでしょう。
〈西方への伝搬〉
なお、西方へ紙が伝わるには結構時間がかかりました。
まず中国→アラブ世界。
751年、現在のカザフスタンにあたる『タラス河畔の戦い』にて、唐とアラブ軍が闘い、捕虜となった唐の技術者によってサマルカンドにアラブ世界初の製紙工場が出来たと言われています。
※1サマルカンド
ウズベキスタンの古都。シルクロードの中継都市として有名で、青空とモスクのラピスラズリ色から「青の都」と呼ばれる。
ここでは亜麻と大麻、灌漑水路という、製紙に欠かせない材料と水がそろっていた。
紙はアラブ世界全体に広まり、イラク、エジプト、北アフリカ沿岸に製紙工場が作られました。
その後、スペイン南部に侵略したアラブ人により製紙の技術が伝わり、1151年のバレンシア地方にヨーロッパ初の製紙工場が誕生します。
同時進行で、北アフリカ→イタリアルートでも伝わりました。
『タラス河畔の戦い』から4世紀、中国で発明されてからなんと1000年以上もかかったんですねこれが!
「『ティアエス』の世界まんまやん~」
ちなみにヨーロッパでも特に遅かったのがオランダで、製紙工場が建てられたのが1586年……。
「戦国時代じゃん……大航海時代じゃん……」
航海技術があっても、製紙技術が伝わってない不思議。
(※アメリカに初めて製紙工場ができたのは1690年。日本だと丁度水戸黄門が徳川水戸藩主の座を甥っ子に譲っています)
〈グーテンベルクの活版印刷術と大量生産〉
グーテンベルクの活版印刷術が登場したのは、1450年頃。このころを境に、紙の需要は高まりました。本、新聞、雑誌などが誕生した為です。
18世紀後半まで、ヨーロッパの紙の主原料は亜麻と木綿、つまりは「ボロ布」でした。しかし、紙の需要が高まってからは、これらの材料は常に不足していくことになります。
「ボロ布なのに?」
また、和紙のように手すきで行っていたため、紙の生産が追いつきませんでした。
そこで誕生したのが、「抄紙機」。つまり、工程の「②篩やザルで繊維をすくう」役割を担う機械です。
1799年フランスで、ルイ・ロベールにより最初の連続型抄紙機が発明されます。
「つーと、ナポレオンがクーデターでフランス政権を掌握した時期か」
その後産業革命のイギリスで、フォードリニア兄弟が改良し、現在の(※2)長網抄紙機の原型が登場。
1844年にはケラーが木材パイプを原料にしたことで、「大量生産・大量消費の社会」が造られたわけです。
※2長網抄紙機
新聞用紙や印刷用紙などを作る抄紙機。おおよそ抄紙機は、この長網抄紙機と、厚紙などの様々な用途に使える紙を作る「丸網抄紙機」に分けられる。
ちなみに、この活版印刷機と抄紙機の登場は、近代小説(Novel)の登場と発展でもありました。
「え、それまで小説がなかったの?」
物語がなかったわけじゃないけれど(宮廷恋愛とか騎士道武勇伝説とか貴族の物語は沢山あった)、市民が文字や知識に触れる機会が出て、
『ドン・キホーテ』みたいな滑稽な冒険物語とか、ピカレスク物語(マテオ・アレマンの『ピカロ ―グスマン・デ・アルファラーチェの生涯―』)、教養小説(ノヴァーリスの『青い花』)が登場するようになったんです。要するに、「フィクションでありながら写実的な物語」の登場でした。
イギリスにおいては、「ロビンソン・クルーソー」(1719年)なんかが始まりだと言われています(イギリスで抄紙機が出来たのはあと100年ぐらい先だけどね)。
(※Novelとは「新しい(形式の物語)」という意味だったそうですよ)
〈和紙の歴史〉
一方の日本。多くのところでは使われなくなったものを主原料にしていたのに対し、日本は楮などの植物から紙を作るなど、かなり上等な作り方をしていました。要するに、めちゃくちゃ品質が良かったんです。
慶応使節団が使った鼻紙とか、今もローマの博物館にあるらしいですよ。
「テッシュペーパー(使用済み)が!?」
品質だけでなく、数や種類も豊富で、地方で多種多様な手法が生まれました。
「福岡なら八女和紙とか。佐賀だと名尾和紙とか。熊本だと水俣和紙とか」
九州ばかり挙げてないで。
越前では、「
明治頃になると、和紙・洋紙ともに世界でも有数の生産量を誇っていましたが、やがて大量の印刷に向かない和紙は廃れていきました。
……とまあ、本当はもう少し掘り下げたかったのですが、正直限界なのでここまで。
「死ぬほど覚えないといけない単語が出てきたもんね……」
とりあえず、紙という発明品が、いかに人類の歴史を動かしてきたかは伝わったんじゃないかなと思います。後日本が滅茶苦茶贅沢な生活をしていたことも。
「障子に紙帳に行燈に雨傘に……」
数えたらキリがありませんね。
というわけで、『ティアエス』の魅力はいったんここまで!
「すっごく微妙なところで終わったな⁉」
いやもう書ききれないかなって!
ホントはカラベル船とか色々やりたかったんだけどね! また別の機会に!
「ぐだぐだだなあもう!」
☆涼月さま、素敵な作品をありがとうございました————!
【参考文献】
Dard Hunter著久米康生訳『古代製紙の歴史と技術』2009年勉誠出版
尾鍋史彦総編集『紙の文化事典』2006年朝倉書店
朝日出版社「しゃかぽん」43号2007年
Wikipedia「紙」
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E7%B4%99
(最終アクセス2021年5月21日)
斎藤勇監修 畑中康男・小宮山博著『イギリスの文学 概説と演習』1993年英宝社
素々子さんのカクヨムブログ 肥前ロンズ @misora2222
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