長く戦いに身を置いていた騎士ヴォルフは、終戦の間際に戦友を喪い、その今わの際、婚約者への手紙を託される。これを最後の旅と心得、傷を負いながらもたどり着いた先で待っていたもの。そして友に託されたものの真意とは……短くまとめられたシナリオながらも老騎士の心情を中心として綿密に描かれた表現力は、長編叙事詩のクライマックスをそのまま切り取ってきたかのようでした。満足度と手軽さを併せ持つ珠玉の短編です。
愛情や友情、そういうものが確かにこの世界にあるのか、私にはよくわかりません。誰か裏切ったり、憎んだり妬んだり、好きだと思ってみたり、そういう存在については確信があります。それでも、やはり確固たる愛や友情を信じたい、そう思うのは人の本性のような気もします。単なる綺麗事としてではなく、生きる上で起こりうる試練や、困難を乗り越えた先で(あるいは手前で?)、そういうものの存在を確信できるのかもしれません。誰かによって紡がれてきた愛とかなんとかを、誰かが未来へ繋げるような、そんな小説だと思いました。
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