閃光

永黎 星雫々

フラッシュ





渋谷は今日も蜃気楼。





フリック操作で言葉を紡ぎ、ハッカーさながらのテンポでタイムラインを遡る。




あなたは、あ、な、た、は、アナタハ、貴方は。


anataと入力するだけで、数多の候補を提案してくれる。こんなにフレキシブルな文明の利器は、いつも私の手中にある。




止まらぬフリック、逸るスクロール、記憶するアイコン、指の先から吸い寄せて、長押しでアカウントを移動させる。こんなのどうやって覚えたのかなんておぼえてない。いつの間にか駆使するようになって、登り続けるエスカレーターみたいに天井知らずで、乾いた笑いが出てくる。








「んね、ひとり?」


「…」







"逆に隣に誰か見えてんの?"そう心中で返しながら、視線を画面に固定させる。なぜこの類の茶髪はいつも、ヒトリであることを確認するのだろう。







「スカート、かわいい」

「こんなキラキラしてんの、初めて見た」







ひとり?の後は、「どっか行かない?」あるいはそれに伴う言葉がお決まりの界隈で、意外も意外の言葉に違和感を覚えたけれど、それでも視線は固定した画面から外さなかった。一瞬たりとも踵を返せば面倒なことになる。


真っ黒のスパンコールに埋め尽くされた、ロングのタイト。そんなのどこでも売ってるじゃんって、そう返すのもなんだか違う気がした。








「んじゃ、またね」







つめたい水に手を浸しているみたいに、バスケットゴールにボールが入る瞬間みたいに、ゆっくりと耳の奥まで浸透して、私を虚無から呼び寄せた。




よく分かんないなァと思う。




続く鼓動を振り払うようにしてフラッシュが光った。三つの目を光らせて、こちらに眼光を固定させ、目を細めたら、怯む逆光が眩しかった。





道玄坂を駆け上がった。





擦り切れるほどに穿つなにかは、私にはこの、ガラスの画面の奥にしかないの。


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閃光 永黎 星雫々 @hoshinoshizuku

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