何を祝福していると、いうのだろうか。

鬱蒼とした森の深いところを歩いている時の不安。
高い湿度を保った陰鬱とした雰囲気が、読者に纏わりついてくる。
文章によって脳内に再生される映像は、ノイズと灰色と夜の黒で描かれる。
らんらんと白目を輝かせながらキャンバスに筆を叩きつける画家、瀧方沢雲の狂気が匂い立ち、読めば読むほど、ありありとその不気味さを形作る。

才能と、情念と、狂気の結晶「祝福」という一枚の絵。

その題名から想起されるものとは裏腹に、その絵は物語全体の雰囲気を背負うように暗く、不気味な印象を人に与えている。

彼の描く「祝福」とは何なのだろうか。
最高傑作を描けたという自分に対してなのか。
あるいはこの狂気の結実を鑑賞する機会を得た他者に向けてなのか。

本当のところは、そのいずれでもない。