遠い未来の君に (The Present From The Past)
白石 俊太
Prologue
Prologue
ここは曙光都市エルジオン。
天空の街の静かな通りを、とある父と息子が歩いていた。
「ねぇパパ。僕、文字を読めるようになったよ。パパが書いた本ももう読めるよ」
「それは偉いな。いつも頑張って勉強してるもんな」
「大きくなったらね、パパが書いた本のヒーローに僕がなるんだ! あちこち冒険して、悪い奴らを懲らしめるよ!」
「ふふ、いつかそんな日が来るといいな。楽しみにしているよ」
他愛もない会話をしながら父子は歩く。なんでもない日常。明日もまた、そんな日が続くと願う。ただそれだけだった。その時までは。
それは突然、ふたりの前に現れた。
『穴』、以外に形容のしようがない、目の前にぽっかりと空いた謎の空間。向こう側にあるはずの街並みは見通せず、『穴』の中にはまるで違う世界が広がっているようだった。
先に気づいたのは息子だった。
「ねぇパパ、あれなーに?」
息子に呼び止められ、一瞬遅れて父が気づく。
「どうした? ・・・これはまさか!?」
その『穴』の正体を父が悟った時、息子の足は地面から離れ、既に身体の自由を奪われていた。『穴』に吸い寄せられるように、息子の身体が宙に舞う。大人ひとりがなんとか入りそうなくらいの『穴』だが、周囲を吸い込みながら収縮しているように見えた。
「パパ助けて!!」
「危ない!!」
とっさに駆け出し、父は息子へと手を伸ばした――。ほんの一瞬の出来事。さっきまで大きく空いていた『穴』は、忽然と姿を消した。
静かな通りに悲痛な叫びがこだまする。
この日ひとりの人間が、この場所から消えた。
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