Episode 4

Episode 4.1

「なんとか劇が成功して、支配人もアウイルも満足してくれたから、これで一件落着だな」アウイルと別れ、劇場を後にしたアルドたちは、既に暗くなっていたユニガンの町を歩いていた。

「本当に素敵な舞台だったね。役者さんたちがとっても綺麗で、観ていて楽しかったなぁ。帰って小説を読むのも楽しみだね」フィーネはアウイルの本を嬉しそうに抱えている。

「人間の心の機微というものが少しは理解できた気がするわ」ヘレナにも得るものがあったようだ。

「あとは腹を満たせば、この上ない幸せでござるな」サイラスとリィカはアルドたちとは違う満足感を漂わせている。


「後世に残る名作をって言っていたけど、私は聞いたことのない話だったのよね」ひと仕事を終えて談笑をしている中、エイミがポツリとこぼした。

「私のデータベースにも当該作品はヒットしませんデシタ。エルジオンに戻ってネットワークに接続すれば情報が見つかるかもしれマセンが」

 公演前にふたりがなにやら話をしていたなとアルドが思い出した。エイミとリィカ、そしてヘレナは未来のエルジオンで生まれ育ったので、後世に語り継がれる名作というのなら知っていてもおかしくはないはずだ。「もしかすると俺たちが介入したことによって未来が変わっているかもしれない」

「明日エルジオンに行って確かめてみましょう。なんだか行く末を見届けてあげたい気がして」もしかすると、アウイルの親父さんが未来に残した子どものことをエイミは気に掛けているのではないかと、アルドはそう思った。

「そうだな。調べるのは別段悪いことじゃないだろう。明日行ってみよう」

 その日は夕食を済ませて宿に戻って休み、翌朝エルジオンへと発つことにした。


 合成鬼竜。次元戦艦と呼ばれるアルドたちの時を渡る翼だ。時代を渡り、大陸を渡る巨大な空飛ぶ戦艦。戦艦と言えど、ヘレナ同様に合成人間の仲間で自らの意思で動くこともできる。彼らの冒険には欠かせない仲間だ。

「おはよう、合成鬼竜。これからエルジオンに向かってくれるかしら」

「承知した。時空を超える。しっかりつかまっていろ」

 エイミの要請に応じて、次元戦艦が動き始めた。


 AD一一〇〇年。アルドが暮らす時代から八〇〇年後の未来世界。

 曙光都市エルジオンは、プリズマの力で浮かせた大陸の中枢都市だ。かつて地上で暮らしていた人類は、汚染・腐食が進んだ大地を捨て、空へと移り住んでいた。

 エルジオンは幾つかの行政区・居住区などに区画分けされていて、エイミはガンマ区と呼ばれる居住区の中心で父とともにイシャール堂という名の鍛冶屋を営んでいる。人間に反旗を翻す合成人間に立ち向かうハンターたちご用達の店で、エイミはその看板娘だ。


「久々に帰ってきたわね」人類が地上で暮らしていた時代の空気も格別だが、エイミにとってはエルジオンの慣れ親しんだ空気の方が居心地の良さを感じる。「アウイルが言うには、お父さんが過去に飛ばされたのはAD一〇八〇年代と記されていたって話だから、その時から少なくとも十年以上は経っているわね。小さな子供だったとしたら、私たちと同じくらいの年齢になっているかしら」

「エルジオンネットに接続・・・ローカルデータを最新版に更新しマス」アルドにはよく分からない言葉をリィカが発している。「進捗率99パーセント。まもなく終了」エルジオンに辿り着いてすぐ、なにやら難しいことをしていたようだが、もう終わるようだ。

「アップデート完了。整合率一〇〇パーセント。サーチ開始・・・」ネットワークとかいうやつで情報を探しているんだろうなということはアルドには分かった。伊達にこの時代を行き来していない。

「アウイルさんのお父様――名前はヒライスさんと言っていマシタが、検索したところ該当すると思われる人物の失踪記録を発見。AD一〇八四年にヒライス氏は謎の失踪を遂げたと記録にありマス。失踪直前まで一緒にいたと思われる幼い息子がおり、当時の証言記録もあるようデス。が、その部分には強固なプロテクトがかかっており、調べることは不可能のようデス」

「ということはそのヒライスさんが失踪したのは今から16年前ってことね。息子も20歳くらいになってるはず、か」

「ハイ。その息子さんに関しても今調べているところデス・・・が、コレハ・・・」

 なにやらリィカが気づいたようだ。


「大変なことになっているようデス」

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