Episode 2
Episode 2.1
砂漠の村ザルボー。ミグレイナ大陸の東端の島にこの小さな村はあった。遠い昔は緑の生い茂る豊かな土地が広がっていたが、長い年月を経て砂漠と化してしまった。しかし、土地が痩せようとも、そこには力強く生き抜く人々の姿があった。
「やっと着いたね、お兄ちゃん!」
「長い船旅だったな。みんな荷物は確認したか?」アルドたちは船を降り、砂混じりの地面の感触を確かめた。ヴァルヲは砂まみれになるのを嫌がり、岩の上に上がり毛繕いをしている。
「帰りもまたよろしく頼むよ」船乗りに礼を言いながら、アウイルも降りてきた。「さて、この村で情報を集めなきゃならないんだが・・・」
「きゃー!! 助けてーー!!」
今後の動きを確認しようとした矢先に、突然悲鳴が聞こえてきた。
「なんだっ!? 向こうから聞こえたぞ!! すぐに向かおう!!」アルドが即座に反応する。
「これも冒険者の宿命ってやつかね。ああ、行こう!!」アウイルも同時に動き出していた。
悲鳴が聞こえた方へ向かうと、村人と思しき人たち数名の座り込む姿やうずくまる姿が見えた。中には怪我をしている者もいるようだ。
「一体何があったんだ!?」駆けつけたアルドが尋ねた。
「実は、盗賊に襲われて・・・」声の主であろう女性が声を震わせながら答えた。
「盗賊だって!? 怪我人もその仕業か!! これは酷い・・・」
フィーネとリィカが怪我人の治療に当たる。幸い重傷者はおらず、この場は応急処置でなんとかなりそうだ。
「相手はこの辺を縄張りにしている盗賊かい?」険しい目つきでアウイルが尋ねた。
「えぇ、『堕落の月』と名乗る盗賊で、この村は何度も襲われています」
「やはりか。噂は本当だったようだな」
「アウイルはなにか知っているのか?」アルドは訳知り顔のアウイルに問い質した。
「『堕落の月』ってのはルチャナ砂漠を拠点に悪さしている盗賊団だ。遊牧民みたいに各地を回って略奪を繰り返していてな。時には船を出して海賊まがいの行為までやる奴らだ。そいつらがルチャナ砂漠の拠点に戻ろうとしているという情報を得て、俺もここを目指して来たって訳さ。どうやら当たりだったようだぜ」
「そうなのか! だったらすぐに後を追おう。きっと砂漠の方へ向かったはずだ」
「そうだな。だが奴らは手強いぞ。なにを隠そう、俺の親父に深傷を負わせたのは『堕落の月』のリーダーだからな」
「なんだって!? ということは『堕落の月』は親父さんの仇ってことか!!」
「そういうことだ。親父はザルボーにしばらく滞在して、それを最後の冒険として古郷に帰るつもりでいたんだ。もちろん『堕落の月』の噂も聞いていて、対峙することがあれば討ち取るつもりだったらしいが、幸か不幸か親父の滞在中には一度も現れなくてな。ザルボーでの役目をあらかた終え、船で帰路に就いたんだが、途中で船が襲われてしまった。その襲ってきた相手が『堕落の月』だったって訳さ。奴らは遭難した商船を装い、救けを求める振りをして親父の船に近づき、油断した親父たちの虚を衝いた・・・それが奴らのやり口さ」
「なんて汚い・・・」アルドはその非道な手口に絶句した。
「防戦に回るとやられる一方だ。今は奴らも油断しているだろう。そこを一気に叩く。お前らは正面から乗り込んで奴らの気を引いてくれないか? その間に俺はひとりで回り込み、奴らの裏をかく。挟み撃ちだ」
「そんな、ひとりでだなんて大丈夫か!?」
「敵地は見通しの良い砂漠だ。複数で動くより俺が単独で動いた方がやり易い。なぁに、お前らが派手に暴れてくれればあとは楽勝だ」
「アウイル・・・気をつけろよ。ヤバいと思ったらいつでも引き返してくれ」
「ああ。頼りにしてるぜ、相棒」
「怪我した人たちの手当ては終わったよ、お兄ちゃん」
「メディカル・サポート、完了シマシタ、ノデ!!」
「ありがとう、ふたりとも。俺たちも心してかからないとな!!」
心配してやって来た村人に怪我人を任せて、戦いの準備を進める。
一行は盗賊団『堕落の月』を討つべく、ルチャナ砂漠へと向かった。
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