第7話 強盗団の首領
懸賞金をいただいた俺は、馬車馬を引く村長とジルと連れ立って村へ帰っていった。
「そう言えば、村長さん。強盗団の首領はまだ捕まってないですよね」
「そうだったな」
「強盗団の幹部がこっちに流れてきたってことは、どうせ逃げる時は追手を分散させるためにも別々に逃げているだろうから、王都から見て北に首領は逃げたんですかね?」
「それは分からんぞ。捕り物の最中に示し合わせる余裕でもあればそう言うこともあるだろうが、てんでバラバラに逃げたとなると、どこに逃げたかは予想できんのじゃないか? ちゃんと北に逃げてくれていればいいが、こっちに流れてきておったら嫌だな」
などと話しながら村に帰っていく道すがら、道端に大柄の男が座り込んでいた。血のにじんだ布を額を覆うように頭に巻いて、着ている衣服からも血がにじんでいる。どう見ても怪しい。
その男が馬車馬を引いて先頭を歩く村長に、
「申し訳ないが、この通りケガをしている。荷馬車に乗せてはもらえまいか?」
「乗せてやってもいいが、儂らはその先の村の者だ。そこまでしか乗せられんぞ」
「それでも助かる」
『主どの、こやつ怪しい。腰の後ろに剣を隠している』
ジルが俺に小声で注意した。
『確かにこの男、手配書にあった強盗団の首領の顔に似ていなくもないな。額から頬にかかるように布を巻いて向こう傷を隠しているようにも見えるしな』
『主どの、
『村長が見てるけど、良いのか?』
『村長なら何とでも言い含めることができるじゃろ。そこは任せた』
『わかった』
『村長さん、この男少し怪しい。俺が相手をするから下がっていてください』
村長は俺の言葉で何が言いたいのか察したようで荷馬車を下げた。
俺は本来の姿に戻った抜き身のジルを手にして男に近づいていった。
「オーサーの奥さん? ジルさん? どこだ?
あれ? オーサー、剣を持っていたのか?」
後ろの方から、村長の戸惑ったような声が聞こえてきた。
「小娘がいたはずだがどこにいった?
お前、剣を構えてどういうつもりだ? 俺のことを知っているのか?」
男はそう言いながら、右手を後ろに動かしている。
「強盗団の首領だろう。額の傷を布を巻いて隠しているんだろ?」
「そんなわけないだろ」
「それじゃあ、額の布を取ってみろ!」
「取ってやるから、もう少し近づいてよく見ろ!」
男は左手で額の布を取るしぐさを始めた。
『主どの、構わず男に近づきなされ。
俺はジルの言葉を信じて男に近づいていく。
男はニヤリと笑い、座ったまま左手で額の布を取ると同時に後ろに回した右手で剣を抜き放っち切り上げてきた。男の額の真ん中から頬にかけて向う傷が残っていた。
俺がジルの柄の部分を両手で持っているにもかかわらず、ジルが勝手に動き、あわやというところで、男の抜き放った斬撃を受け留めた。と、思ったら、その剣身をすっぱりと切り飛ばしてしまった。そして、そのまま男の首元に切っ先が突き付けられた。
「バカな」
そう一言呟いて、男は真ん中から先の無くなった剣を地面に落とし、ゆっくり手を上げた。
「村長さん、荷台の上の縄でこの男を縛ってもらえますか」
大男を縛っていた縄で目の前の男を村長に縛り上げてもらうことにした。俺はそこらに投げ捨てていくわけにもいかないので、ジルが切り飛ばした剣身と残った剣を拾って荷台に入れておいた。
村長が男を縛りながら俺に、
「オーサー、その見事な剣はどうした?」
「ジルが最初から持っていたじゃないですか」
「そうだったか? 気付かなかった。
そのジルさんが見えないがどこにいった?」
「先に帰らせました」
「それも気付かなかった。一人で帰してよかったのか?」
「大丈夫でしょう。一人で王都から村までやってきたくらいですから」
村長は『儂もボケてきたのかな?』とかぶつぶつ言いながら男を立たせて縛り上げた。
縄で縛られた男を引き立て荷馬車に乗せ「一日二回もお尋ね者を捕まえてしまうとはの」と、村長。
「二回?」と、今度は強盗団の男が聞いてきた。
「ああ、朝方、大熊のガーソンという大男を捕まえて代官所に届けた帰りだ。まさか強盗団の首領まで捕らえることができるとはな」と、俺が答えてやった。
男が荷車の上で身動きできないように縄を荷車のそこらに括り付けて、俺たちは街に引き返していった。ジルは抜き身のままだったので上着を脱いで巻いておいた。
街に引き返した俺と村長は再度代官所にいき、先ほど捕まえた男を警邏隊に引き渡した。
「お手柄、お手柄。あの男は相当な剣の使い手ということだったが、よく生け捕りできたものだ。
今回の手続きはすぐ終わるからそこで待っていてくれ」
と、警邏の隊長に言われたので代官所の玄関あたりに村長と二人で立っていたら、紙切れを持って隊長が戻ってきた。
「懸賞金の金貨二百枚の受け取り場所は王都の警邏隊本部になる。
この証書を提出して受け取ってくれ。その際王都までの往復の旅費見合いも加算されるから心配しなくても良い」
「ありがとうございます」
そういって俺はその紙を受け取った。
「オーサー、王都にいかなくちゃいけなくなったな」と、村長。
「畑が心配なんですが」
「そっちは村の者で何とかするから心配無用だ。できるだけ早く王都に行け」
「わかりました」
というわけで、俺は二度と舞い戻ることはないと思っていた王都に行くことになった。
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