第12話 終話、成王の剣(つるぎ)
[まえがき]
最終話、ちょっと長いですが最後までよろしくお願いします。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
継世の巫女、ブラウさんの一方的な話を聞いた俺は『世の中が勝手に動いてやがて俺が王になる』と言ったジルの言葉を思い出し、なるようになれ。と、思うことにした。
「オーサー殿が即位すれば聖剣に選ばれしエドモンドI世陛下。なかなかよい響きです」などと、ブラウさんはニッと笑いながらつぶやいた。
「あのー、政治など全く分からない者に王さまが務まるのでしょうか?」
王さまには確かに成れるかもしれないが、成ってしまえば王さまとしての責任が当然生まれる。俺が不安を口にすると、
「王さまはへたなことは考えず、政治などは臣下に任せれば良いのです。臣下の仕事を公平に評価し、臣下が成果を上げれば褒め、失敗すれば叱る。それが王の務めです」
それくらいなら俺でも何とかなるかもしれないと思い始めたが、いやいや、そんなに甘いものではないだろう。俺の不安そうな顔を見たブラウさんが、
「この
そうブラウさんに力強く言われ、少し安心した。よく考えたら、ジルだっているんだ。何とかなるような気もしてきた。
「聖剣を抜きし者が王都にいるとわかれば、王の手の者に害される恐れがあります。この神殿の中の方が安全ですからこちらに移ってください。オーサー殿の寝泊まりしている場所を教えていただければ、人をやって引き払わせ荷物をここに運ばせます」
言われてみれば、俺は現王や王室から見たら
そういったことで俺は大神殿で生活することになってしまった。
大神殿で何不自由なく過ごして、とうとうジルとでき上った鞘を受け取る日になった。この日、継世の巫女であるブラウさんは王宮に赴いて、王に
俺は鞘職人のバートンさんの工房に
断ると失礼な気もしたので、ありがたく馬車に乗り工房前まで送ってもらった。
工房に入ると、バートンさんが店先で待っていてくれた。手にはジルが収まった見事な鞘が握られていた。
「待ってたぞ。
どうだ?」
バートンさんに手渡された鞘は、薄ベージュ色の本体に金、銀で
「象牙を削って本体の鞘を作り、金銀で象嵌した。
剣帯はおまけだ」
渡された剣帯を腰に巻き、鞘を剣帯に括り付け、
改めて
「ありがとうございます」と、俺が礼を言うと、すぐにジルが人の姿になって俺の横に立ち、
「バートンどの、
「俺もいい経験をさせてもらった。あんがとよ」と、バートンさんが言ってくれた。
工房の前で大神殿の馬車が待っていてくれたようで、ジルを伴って馬車に乗り込んだ。馬車が待っていたことに驚いていたジルに、馬車の中で大神殿と継世の巫女の話をしておいた。
「
それはそうと、主どの。
「ジルのいった通りかもしれない」と、俺は苦笑いしながら答えた。
「そうそう、主どのに伝えておくことがあるのじゃ」
「なんだい?」
「立派な鞘を作ってもらったおかげで、これからは好きな時に剣から人に成れるようになった。人から剣は今まで通りいつでも可能じゃ」
「それは良かったじゃないか」
大神殿に戻ると、ブラウさんが待っていた。俺が連れ帰ったジルを改めてブラウさんに紹介したところ、彼女は、
「おお、これが聖剣ジルベルネ・スローンの人としての姿。わたしの代で夢が叶う」そうつぶやいて「ありがたや、ありがたや」と言いながら、ジルを拝みだした。
しばらくジルを拝んで満足したのか、ブラウさんがジルを拝み終り俺に向かって、
「オーサー殿、王はわたしの提案を受けました。
試合は十日後、場所は王宮内の宮殿前広場ということです。試合には貴族や大商人たちが招かれます。そこでは王もめったな手は使えないでしょう」
「分かりました。最善をつくします」
「主どの、
ジルのその言葉を聞いたブラウさんは大きくうなずいていた。
俺はブラウさんから、試合当日まで大事を取って大神殿から出ないように言われたため、ジルの刺さっていた裏庭でジルを使ってもっぱら素振りの稽古をしていた。その際、神殿で用意してくれた革鎧を始めとした防具を体になじませるため、それらを装備している。
素振りの稽古中、二度ほど矢が飛んできたが、ことごとくジルが叩き落している。ブラウさんから後で聞いたが、矢じりには致死性の毒が塗ってあったようだ。そのことがあって以来中庭にも出れなくなってしまい、与えられた部屋の中で体をほぐしたりして過ごした。
そして、とうとう試合の日がやってきた。空は抜けるような青空だ。絶好の
試合は九時を目安に両者が揃った時に行われることになっている。俺はあらかじめ革鎧を着て大神殿で用意してくれた馬車に乗り込んだ。俺の着ている革鎧は大神殿に貸してもらったもので、何日か着て体になじませている。見た目は軽戦士である。
馬車にはブラウさんとジルが同乗している。その後を五台ほど大神殿の馬車が続いており、どの馬車にも俺を応援してくれる大神殿の神官たちが乗っているそうだ。
俺の試合相手だが、王国一の戦士と言われている王国軍の将軍ということだった。これまでの戦いで幾多の戦功を上げて兵から将軍に上り詰めた人物という。門閥出身の名ばかりの将軍ではない本物の戦士らしい。
「なーに、相手がだれであろうと心配はいらぬ。何度も言っておるが
ジルに励まされ、俺も少しずつ余裕が生まれてきた。
王宮前に馬車が到着したところで、ジルが剣の姿に戻り鞘に収まった。
馬車を降りた俺はブラウさんに先導される形で王宮内に入っていった。俺の後には大神殿の神官たちがずらずらついてきている。
試合の勝敗は、相手を死亡も含め戦闘不能にするか、降参させるか。
試合場となっている王宮内の宮殿玄関前の広場にはすでに多くの人が集まっていた。
試合場の広さは二〇ヤード四方。試合場の中には十五ヤードほど離して二つ床几が置いてあり、宮殿側の床几には試合相手の戦士が座っていた。試合相手はゴツい鎧を着込んでいるものと勝手に考えていたが、予想に反してその人物も革鎧を着ており、手にする得物はモーニングスターと呼ばれる丸いメイスヘッドにスパイクの付いた大型のメイスだった。
試合相手の後ろの観覧席には一段高いところに置かれた大きな椅子に王さまらしき男が座っていた。その周囲の席についているのは王族たちだろう。
ブラウさんを始め大神殿の神官たちは、王族たちの観覧席の向かい側に
俺も床几の上に座って、じっと試合開始を待った。
しばらくして、王都各所から九時を報せる鐘の音が響いた。
俺は立ち上がり、ジルを鞘から抜き放った。試合相手も立ち上がり両手でメイスを構えた。二つの床几は係の者が素早く片付けた。
ジルは大剣というほど大きくはないが、俺はジルを両手で構えて試合相手に向かっていった。
『主どの、敵の打撃は重い。
相手の間合いはジルよりも1フィート近く長く広いので、ジルの間合いまで相手に近づく必要がある。もちろん相手は簡単に俺の接近を許さない。俺があと
『主どの、構わぬから、1歩前に』
ジルはそう言うが、唸りを上げるメイスを見ていると、なかなか踏ん切りがつかない。
このまま、時間が経っていけば、大型メイスを振り回している相手のほうが不利になると思うが、相手の動きは一向に衰えない。
『主どの!』
えーい! 運を天に任せて1歩前にでた。すかさず唸りを上げたメイスが襲ってくる。
メイスの柄とジルの刃が打ち合い、火花と同時に、キーン! という金属音が試合場に響き、観客席からはどよめきが漏れた。
強盗団の首領の剣は一撃で切り飛ばすことができたが、やはり大型のメイスはそこまで簡単ではなかった。
今の一撃はずっしりと重い手ごたえがあったが、耐えられないほどではなかった。自分だけで気負うのではなく、ジルに任せていればなんとかいけそうだ。少し体が軽くなったような気がする。知らず知らずのうちに緊張していたらしい。
観客席からどよめきが続く中、その後、同じように数合合わせたところで、相手が嫌って一歩下がった。
『主どの、いくぞ!』
そこから俺はジルを振りかぶり一歩二歩と前進しながら連撃を放った。相手は大型メイスにもかかわらず俺の連撃を防ぎ致命傷だけは避けている、革鎧には数カ所大きく傷が入り、そこから血が滲んでいる。
このままならいける!
俺は勝負の一撃とばかりにジルを大きく振りかぶり切りつけた。
キーン! 相手のメイスは辛くも俺の一撃をしのいだが、俺の方は力を込めた分逆にジルが大きく跳ね返されてしまった。相手はジルを跳ね返した位置から余計な動作はせず、まっすぐメイスを突いてきた。
俺はその突きを躱そうと体を捻ったが間に合わず、メイスを胸に受けてしまった。
グハッ! 息がつまり、喉から何かがこみ上げてきた。この味は血だ。
『主どの、
相手は
ジルを構えてすぐに俺の胸の痛みは引いた、おそらく傷はほとんど治っている。両手が自然と動き相手が振り下ろすメイスの柄にジルを合わすことができた。
カーン。これまでとは違う音と一緒に振り下ろされたメイスの柄が折れてしまった。付け根近くで折れて地面に叩きつけられたメイスヘッドはその場で3分の1ほど埋まってしまった。
俺がメイスの柄だけを持って一瞬動きを止めた相手の喉元にジルを突き付けたところで、試合相手は残ったメイスの柄を地面に投げ捨て両手を上げて降参した。
あの時、もし相手が振りかぶらずそのまま突いていたら俺はなすすべなく倒れていただろう。
割れるような歓声の中、俺の後ろの観客席からブラウさんが飛び出して、俺に抱きついてきた。
「オーサー殿、おめでとう! よくやってくれました」
ブラウさんの後に続いて大神殿の神官たちも俺の周りに集まり口々に祝福してくれた。
試合から三日後。
現王はやむなく息子である王太子を廃嫡して、俺を新たな王太子として指名した。その数日後、王は体調を崩し寝たきりになった。そして
俺は、翌日エドモンドⅠ世として即位した。一週間後、前王の葬儀は俺の名で大神殿にて行われた。戴冠式は喪の空ける三カ月後と決まった。戴冠式も、もちろん大神殿で行われる。即位して戴冠式が行われる間、俺は故郷の村の村長に、王さまに成ったので村には帰れないことと、俺がしばらく暮らした小屋の整理を頼むむね手紙を出しておいた。俺の手紙を受け取った村長は
エドモンドⅠ世の治世下。王国内では門閥などにとらわれず有為の人材が登用されたうえ信賞必罰が徹底された。また登用された新官僚達により王国では産業を育成奨励していった。その結果王国の国力は飛躍的に高まり、王国は繁栄を極めた。
エドモンドⅠ世の没後、
(完)
[あとがき]
最後までお読みくださりありがとうございます。
フォロー、☆、応援、感想などありがとうございます。
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よろしくお願いします。
作者のその他の作品もよろしくお願いします。
ひっこ抜いたら王になれるという聖剣をほんとにひっこ抜いたら、腰も抜けたので田舎に帰って養生します。 山口遊子 @wahaha7
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