第6話 隣街、代官所、懸賞金


 村から代官所のある隣街までは6マイルほどなので今から歩いていけば昼前には到着する。


 2時間少し歩いたところで、街並みが見えてきた。


 ジルは黙って俺の隣を歩いている。


「あともう少しじゃ。

 男を代官所に引き渡したら、メシにしよう。この男がお尋ね者だったら金一封が出るかもな」と、村長。


「俺たちに簡単に捕まったくらいの男ですから、そこまで大物じゃないでしょう」と、俺。


「確かにな」


 俺たちの話を聞いていた男が、荷車の上から、


「お前たち、俺をこんな目に合わせて、タダで済むと思うなよ」


 それを聞いたジルが荷台に括り付けられた男に近づいて、荷馬車の横あいから何も言わず男の尻を手に持った棒で殴りつけた。鈍い音が響いた。


「小娘、お前だけは誰が何と言おうと許さないからな!」


 ジルがまた何も言わず男の尻を棒で殴りつけた。また鈍い音が響いた。


 それ以降男は何も言わなくなった。



 街の中に俺たちが入っていくと、荷馬車の荷台に縄で括りつけられた大男が珍しかったのか、街の人が村長と俺に話しかけてくる。何故かジルには話しかけてこない。ジルが美少女過ぎて話しかけづらいのかもしれない。いや、棍棒を持った美少女に引いたのかもしれない。


 俺は話かけられる都度、


「村を襲った暴漢だ。代官所に引き渡そうと連れてきた」と、答えておいた。


 そのうち、


「あの男、顔は腫れあがっているが、代官所の前の掲示板に張り出されていた人相書きの男に似てないか?」


 とか言う者が現れた。そしたら「似てる」「似てる」「本人だ!」とか騒ぎになり始めてしまった。


 えっ!? こいつ、そんなに大物だったのか?


 周囲のわいわい言う声を聞きながら、俺たちは代官所に到着した。村長が代官所の中に入っていき、俺とジルは荷台の上の大男を見張っている。代官所の入り口わきの掲示板を見ると確かにあの大男によく似た男の似顔絵付きの手配書が貼ってあった。


 名まえは大熊のガーソン。強盗団の幹部。懸賞金額は金貨百枚。とんでもない大物だった。


 その隣には強盗団の首領の似顔絵付きの手配書が貼ってあった。似顔絵に書かれた首領の方も大柄な男で、名まえは向こう傷のマッド。特徴として額の真ん中から頬にかけて名前の由来の向う傷がある。剣の使い手で、王都での捕り物から逃れはしたがその時負傷しているらしいとのことだった。こちらの懸賞金はなんと金貨200枚。言葉もない。


 しばらくしたら、村長と一緒に、警邏の制服を着た男たちが五、六人現れた。


「おおっ! こいつは強盗団の幹部、大熊のガーソンにちがいない!」


 隊長らしきおっさんがそう言って、部下たちに大男を引き立てるように指示した。


「ご苦労さま。この男は賞金首だ。王都でしばらく前に強盗団の大捕り物があったんだが、こいつはその時取り逃がした強盗団の幹部だ。王都から手配書がここに送られてきてまだ四、五日しか経っていなかったが、村長さんお手柄でしたな」


「儂がどうこうしたわけじゃない。大男を捕まえたのはそこの男だ」


「ほう。

 どうだね、お前さん、警邏隊に入隊してみんかね? 腕の立つ男はいつでも大歓迎なんだがな」


「ありがたいお話ですが、今は畑仕事があるので、遠慮させてください」


「無理にとは言わんがな。もし、ここらで大捕り物があるようなら、その時は手伝ってもらえれば助かる」


「わかりました。その時は声をかけてください」


「うむ。

 それじゃあ、村長さん。一応男を取り調べてから賞金を手渡すから、1時間ほどしてまたここに来てくれるかね」


「了解した。賞金はいくらなんかな?」


 村長は、手配書を見ていなかったので、賞金額を隊長に聞いた。


「あの男の賞金は金貨百枚だ。まだ捕まっておらん強盗団の首領の賞金は金貨二百枚だ」


「金貨二百枚の賞金首とは恐れ入ったが、金貨百枚も相当だな。

 オーサー、良かったじゃないか。

 それじゃあ、儂らは昼めしを食っておこう。

 オーサーとジルさん、いこうか」


「「はい」」



 荷馬車は代官所の脇に止めていてもいいと言われたようなので、そのままそこに荷車ごと馬を繋いで、俺たちは代官所近くの食堂に入った。


 定食を注文して、出てくるのを待つ間、


「金貨百枚とは豪勢だな」


「村長さん、みんなで捕まえたわけだから、村のみんなで使いませんか?」


「うん? 何を言う。お前さんが賞金首を捕まえたんだ。悪人を捕らえてもろうてありがたがる者はおるが、文句言う者はおらんぞ」


「そうは言っても」


「気にするな、気にするな。お前さんたちも今の小屋では住みにくいだろう。

 その金で家でも建てたらどうだ?」


「そうかもしれませんが、まだ畑仕事もこれから先どうなるか分からないし、家の方はまだ先でもいいと思います」


「そうだな。まあいい、とにかく懸賞金はお前さんのものだ。好きに使えばいい」


「わかりました。ありがとうございます」



 食堂で定食を食べ終えた俺たちはまた代官所に戻っていった。食堂の三人分の代金も村長が払ってくれた。




「それじゃあ、オーサー、中に入って賞金をもらってこい」


「はい。

 ジルはどうする?」


わたしはここで待っておく」



 俺一人代官所の中に入るのは少しだけ気後れするが、別に怒られるわけではないと思い直し堂々と代官所の中に入っていった。


 中に入るとホールがあり、正面にカウンターがあった。俺はどこにいけばいいのか分からないので、それらしい場所を探してうろうろしていたら、例の隊長さんが俺を見つけてくれた。


「おーい、こっちだこっちだ」


 隊長さんのところにいったら、ずっしり重い小袋を手渡された。


「金貨百枚だ。確認して、この受け取りにサインしてくれ」


 金貨をカウンターの上に並べて1枚1枚数え、きっちり百枚あることを確認した俺は受け取りにサインした。


「ところで、あの男はどうなります?」


「もう少し取り調べて、最終的には縛り首だ。おそらく四、五日先に公開処刑される」


「そうでしたか。

 それじゃあ失礼します」


「さっきも言ったが、何かあったらよろしくな」


「はい。その時は村長にでも知らせていただければ」




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