痛みとの約束

詩のような、祈りのような、その物質の魔力に取り憑かれた者たちだけが口ずさむことのできる歌のような。
あの不思議な言葉たちはきっと痛みとの約束なのだ、そんなふうに解釈しました。
美しさとは同時に怖さを感じさせることが多いものですが、あの“歌“にはそんな力を感じます。
不思議な浮遊感と落ち着かなさ、魂がどこかへさらわれたような不安。繊細に紡がれた言葉の抒情に魅せられながら、現実との境目を束の間、見失います。
美しくて、怖くて、悲しい。

薬物依存というテーマ自体がweb小説で扱われることが稀有な上、その圧倒的な教養や、エネルギーの暴走を抑制しながら書いてゆく理性、ポエティックな言葉のリズム。
それらすべての奇跡的なバランスをわたしたちは目の当たりにして、ちょっと言葉を失います。

和泉眞弓さんは、もうとっくに文壇で活躍していなきゃおかしいのでは?
そう思っている読者は多かろうと思います。
本作はその思いをさらに強くさせるものとなりました。