大人の恋は、冷めにくい

万年筆。

そのアイテムだけで文具好きとしてはぐっと心をつかまれましたが、読み進める先に待っていたのは、せつなくも軽やかでしっとり甘い大人の恋でした。



既婚の笛子と離婚済みの坂井は、危なっかしくも確実に互いの好意を確認し合ってゆく。
洒脱というにはちょっと不器用な、スリリングな大人の会話や描写の数々が、卓抜なセンスと人間観察力を見せつけます。

切り取って何度も味わい直したい、さりげなくも普遍性の高いフレーズが全編にわたりいくつも織り込まれ、物書きのひとりとしても思わずうっとりと甘美な溜息が出ます。

そして、なんとも尊い「おまけ」。

カクヨムは、というかどの投稿サイトもそうですが、若者だけのためのものではありません。

そのことを今更ながら再認識させてくれる、成熟した大人の魅力の詰まった珠玉の物語。圧巻です。