ハッピー・クリスマス
烏丸千弦
“ Let's hope it's a good one, Without any fear ”
チェコ共和国、プラハの十二月はいつにも増して賑やかだ。旧市街広場には巨大なツリーやイルミネーションが飾られ、世界一美しいと謳われる大規模なクリスマスマーケットには、国内外から大勢の人々が押し寄せる。
他にもヴァーツラフ広場を始め、クリスマスマーケットは街のいたるところで開かれていて、ここヴィノフラディ地区にも、オレンジ色の暖かい光でライトアップされた赤いテントがずらりと並んでいる一角があった。
世界的な人気を誇るロックバンド、ジー・デヴィールのベーシストであるテディは、普段はサングラスか帽子程度のカモフラージュでごく普通に外出し、トラムやバスにも乗っている。だが、さすがに人の溢れるこの時期は、よほど外せない用でもない限り外へ出かけようとは思わなかった。
バンドの面々も事務所のほうもクリスマス休暇ということで、ロニーをはじめスタッフのほぼ全員と、ジェシやドリューもみんな里帰りしていて、年が明けるまで戻ってこないと聞いていた。プラハに残っているのは自分とルカと、この地に生まれ育ったユーリだけだ。テディは自分のことは気にしないでブリストルの家に帰ってくればとルカに云ったのだが、彼は未だに母親と和解していないらしく、頑なに帰ろうとはしなかった。
自分はといえば、もう既に二度バーミンガムの祖父に会いに行き、零れ落ちていた時間を取り戻そうとするかのように一緒に過ごし、たくさん話もしていた。だが、この休暇のあいだは祖父の甥や姪とその家族や、その他の遠い親類などもやってくる予定だと聞いて、自分は遠慮しておくと伝えていた。理由は云わなかったが、祖父もなにも訊かずそれを了承してくれた。
通りに面した窓を細く開けて、テディは煙草の箱を手に取った。
バンドのフロントマンであり恋人のルカが、自分とふたりで暮らすために借り、家具やテキスタイルまで完璧なセンスで揃えたこの部屋は別に禁煙というわけではなかったが、テディはいつも窓の傍にあるこのレザー張りのエッグチェアで寛ぎ、一服していた。ここにこうして坐り、街の喧騒を微かに運んでくる風を感じながらお気に入りのゴロワーズ・レジェールを吹かすのは、もうすっかり楽しみのひとつになっていた。
薄紫の緞帳が下りてくるこの時間――いつもならますます往き交う人の数が増えてくる頃なのに、何故か人通りは少なく、マーケットの屋台もいつの間にかほとんどが店仕舞いをしていた。それを見て、テディは今日がクリスマスイヴであることに気がついた。
チェコ語で
困ったな、とテディは煙を吐きながらリビングの奥を見やった。
ルカは、今日がイヴだってことを――いつものデリバリーやスーパーマーケットが休みだということを、ちゃんとわかっているだろうか。
きちんと道具を揃えてあるわりには結局なんだかんだとどっちも料理をしないこの家の冷蔵庫は、スタロプラメンやシードルとアップルタイザー、マットーニなど飲み物の他はチーズとソーセージくらいしか入っていない。なんでもない日ならホテルのレストランにでも行くが、今日という日にわざわざ出かけていって特別待遇をさせたり、騒動を起こそうとは思わない。
どうしたものか、と考えていたそのとき――玄関のブザーが鳴った。
いったいこんな日に誰が尋ねてくるのだろうと首を傾げながら立ちあがり、テディはエントリーホールの壁に近づくと、インターコムのモニターを視た。
「ユーリ?」
モニターの小さな画面にはバンドのドラマー、ユーリが、なにやら両手いっぱいにショッピングバッグをぶら下げて立っているのが映っていた。
「案の定だな。そんなことだろうと思ってたんだ。――あ、これは冷蔵庫に入れといてくれ。その紙袋はあとだ。こっちに置いとけ……よし、さすがに胡椒までは買ってきてないが、そのくらいはあるよな?」
「うん、調味料はかなり揃ってるよ……ほとんど新品のままでね。ほら」
「こりゃあすごい」
テディの指したスパイスラックには、中身がまったく減っていないのがわかる透明なスパイスミルがずらりと、まるでインテリア小物のように並んでいた。呆れてゆるゆると首を振りながらユーリは買ってきた食材をテーブルの上に並べ、テディに云った。
「で、あれこれ揃えるだけ揃えてなんにもしない坊っちゃんはどうした? 寝てるのか」
「ううん、昼からずっとモデル仲間とビデオチャットしてる」
「チャット?」
「うん。チャット」
「……昼からずっと?」
「うん。ずっと」
「ずっと、パソコンに向かって?」
「うん」
淡々と答えるテディの眼の前で、ただでさえ強面と云われる顔がみるみるうちに不機嫌な色に染まっていった。
「ほう……、さすがセレブな我らがフロントマン殿だ、なかなか優雅な休暇を過ごしてるらしいな。ちょっと顔を見てくるか」
そう云ってつかつかとキッチンを横切り、リビングへ続くドアを開けようとするユーリを、テディは慌てて引き留めた。
「待って待って。俺は気にしてないからいいんだって――」
「こんな日におまえを放ったらかしてまで、いったい誰となにを話してるのか興味があるだけだ」
そう云ってユーリはばんっと勢いよくドアを開け、振り返ったルカに「よお」と声をかけながら近づいた。
「なんだびっくりした――ごめん、アマンダ、ティーナ。客が来たんでいったんログアウトするよ……ありがとう。またね」
じゃあねルカ、またね、と向こうからの声が止むのを待ってビデオチャットのウィンドウを閉じると、ルカは今度は椅子ごとくるりとこっちを向いて「どうした、いつ来たんだ」とユーリに尋ねた。
「ついさっきさ。で、おまえはなにやってんだ」
「なにって――ちょっと、用があって話してただけだよ」
「モデルの女と? ふん、どんな用なんだか」
「って、おまえこそなにしに来たんだよ」
「ああ、なにか旨いもんでもテディに食わせてやろうと思ってな……あのキッチンは、別に飾りじゃないんだよな? 使っていいよな?」
そんなことを云われ、ルカは目をぱちくりとさせてユーリを見た。
「使うって、え、ここでおまえが料理するのか? なんで?」
「やっぱりだ。おまえ、今日はもうどこへ行ってもやってる店なんかないぞ、ったく。来てよかったぜ、危うくテディが飢えちまうところだ」
「ああ、今日二十四日か。すっかり忘れてた」
ルカがそう答えると、ユーリは片眉をあげ、一方の目をぎょろりとさせて睨みつけた。なんとなく察したのか、背後にいたテディが思わず「いやパンとチーズと缶詰くらいあるけどね」と云うと、ユーリはありえない、というふうに首を振り、テディに向いた。
「クリスマスの晩に缶詰? 冗談はよしてくれ……。定番の
「クッキー? あ、さっきの紙袋、あれクッキーだったのか」
そう云うとテディはひとり、軽い足取りでキッチンへ戻っていってしまった。その子供のような様子を見て、ユーリとルカが思わず顔を見合わせ、苦笑する。
肩を竦めながら、ルカは云った。
「俺も食っていいのか?」
「しょうがねえから、おまえもついでに食わせてやるよ」
「ありがたいね」
「さて、じゃあしばらくキッチンと、テディを借りるぞ」
「まかせた」
ユーリがキッチンへ戻ると、樅の木型のクリスマスクッキーを摘み食いしていたテディが冷蔵庫を開け、チーズのパックを取りだした。それを振り向いて掲げ、ユーリに尋ねる。
「カツレツ作るなら、ついでにチーズも揚げられる? これ」
「
「ん、ピーラーがあるよ」
そうしてふたりは仲良く並んで袖を捲り、クリスマスディナーの準備を始めた。
「
「メリークリスマース!」
普段、まったく使われていなかったボウルやカッティングボードをいちいち洗い直していた所為で思ったよりも時間がかかったが、テーブルの上には無事、たくさんの料理が並んだ。
ポテトサラダは、ほとんどテディがひとりで作った。と云っても、ユーリが買ってきたもののなかにポテトサラダ用に売られている、細かくカットした人参やセロリ、玉ねぎ、きゅうり、えんどう豆などがぎっしりと入った瓶詰めのピクルスがあったので、テディのやったことといえば茹でた芋を潰し、そのピクルスとマヨネーズを加えて混ぜただけである。
ユーリはそのあいだに、
そして最後に赤ワインを鍋にかけ、そこへシナモンスティック、クローブ、レモンの皮、蜂蜜を入れれば、
「あー旨いねこれ。あったまるー」
「少しアルコールが飛んでるから、おまえでも大丈夫だろ」
「俺は、食ってるあいだはこれでいいけど、あとからやっぱりビールかな」
「同感。買ってある」
「ねえルカ、ポテトサラダ旨い? ふつうに旨くない?」
「ん? おまえが作ったの? うん、旨いよ。こんなのできるのか」
「混ぜただけだぞ」
「なんでばらすの……」
たわいも無い話をしながら、メインの料理をほとんど平らげた頃。既にビールを飲み始めていたルカが、リモコンを取ってTVをつけた。
年末によくある、一年の総浚い的なニュース番組をやっている。酷暑、メタノール入り密造酒事件、プラハ・ルズィニエ国際空港の改称。国外ではロンドンオリンピック、銃乱射事件、ハリケーン。そしてニュースキャスターのトークを挟んで、この年に逝去した著名人の映像が、簡単な紹介テロップを入れて次々と流れ始めた。そのなかにザ・バンドのリヴォン・ヘルム、ディープパープルのジョン・ロードをみつけ、三人はあぁ……と嘆きながら視ていた。
そしてふと、感慨深げにルカが呟いた。
「今年って、バンドにとって本当のスタート地点だった気がするな」
「うん? ……そうだな、ブリットアワードがでかいからな」
「なんていうか……いろいろ問題が起こってもスキャンダルで騒がれても、ここを超えればもう、ちょっとやそっとじゃ消えはしないっていうラインみたいなのがある気がするんだけどさ。去年はそこから沈まないように必死だったけど、今年はやっと超えられたんじゃないかと思うんだよ」
「ああ、なんかわかる気がする。……たぶん、もうドラッグで叩かれたりしても、バンドはそんなにダメージ受けないよね」
「ってかやるなよ」
「喩え話だって」
ホットワインでも多少は酔いがまわっているのか、テディはほんのりと上気した頬を綻ばせて笑った。そして
「まあ、あれだ。今年も、みんなよく頑張ってきたよな。おつかれさん」
そう云って、ユーリはスタロプラメンの瓶を掲げた。ルカもそれに倣う。テディもホットワインのグラスを掲げ、そのまま呷った。
「来年の予定ってまだ立たないんだっけ」
「ロニーは春頃から始動かなって云ってたがな。今までよりペースは落としてじっくりできるんじゃないか。アルバムなんて毎年出す必要はないしな。ツアーのことも考えれば二、三年に一枚くらいでいい。じっくり時間をかけて、クオリティの高いものを作りたい」
「忘れられちゃわない?」
「アルバム以外にいろいろやればいいんじゃないか」
「たとえば?」
「タイアップとか、それぞれで誰かとコラボするとか……おまえならなにかの映画にカメオ出演するとかな。ドラマなんかのオファーは来てたんだろ?」
ルカはとんでもない、というように肩を竦めてみせた。
「勘弁してくれよ……そうでなくても昔、学校でやった『ハムレット』の映像が晒されてるってのに。誰だよ、あんな画質の悪いもんアップしたのは」
「っていうか、あれを視てドラマのオファーが来たんじゃないの」
「なかなか様になってたもんな」
「視たのかよ!」
そして話題はいつものように音楽へと移り、ジー・デヴィールも得意とするカバー曲について、三人は熱く語りあっていた。既に何枚もの皿は綺麗に平らげユーリが重ねて下げてしまい、代わりにテーブルに並んでいるのはスタロプラメンの空瓶と、ナッツの殻だ。
テディは眠ってしまいたくないと思ったのか、この日は早めにアップルタイザーに切り替えていた。普段、この部屋では吸わない煙草も、テーブルに灰皿を置いて吹かしている。いつの間に喫煙者に戻ったのか、ユーリもウィンストン・レッドボックスを吸いながら、熱弁を揮っていた。
「――昔ほどアルバムが売れなくなってきてるっていうのはわかる。ウェブでも聴けるし、景気とか懐具合とかも関係してるんだろうさ。だけど、アーティストが有名な定番曲に負んぶに抱っこ状態なのはどうなんだって、俺は云いたいんだよ」
「負んぶに抱っこって」
「いや、わかるよ。人気のある名曲をやれば堅い、って感じはあるよな。あんまりアレンジしないでオリジナルに忠実にやることが多いのも、それを裏付けてる」
「下手に弄ると酷評されるからな」
「まあ、確かにカバー曲って、昔のビートルズやストーンズなんかはまったく無名なところから引っ張りだしてきて、かなりアレンジもしてるよね」
「そうだろ? このあいだドリューも云ってたが、エルヴィスの〝ハウンド・ドッグ〟やビートルズの〝アンナ〟なんて、誰もカバーだと思ってなかったんだ。アーサー・アレキサンダーやビッグ・ママ・ソーントンを知ってる奴なんか、ほとんどいなかったんだから」
「え、アーサー・アレキサンダーって、ストーンズの〝ユー・ベター・ムーヴ・オン〟の?」
「そうだ」
「そういえば、さすがにそのあたりはオリジナル曲を聴いたことがないね」
「だなあ、せいぜいジミー・リードやスリム・ハーポくらいまでだ」
「だろ。俺が云いたいのは、カバーするならそうやって、あまり知られてないような隠れた名曲を発掘して、いま聴いても遜色ない音とアレンジで演るべきだってことだ。いくら名曲って云ったって、あっちでもこっちでもカバーされてる、誰でも知ってるようなもんを右へ倣えって感じでやってなんになる? みんながその名曲に惹かれてオリジナルのほうをアルバムごと聴いてくれるんならいいが、そんなのはもともと音楽フリークな奴だけだ。ほんの一部の代表曲ばかりが膨れあがっていって、その陰に隠れちまったままたくさんの曲が埋もれて忘れ去られていくなんて、俺は黙って見ちゃいられない」
「よくわかるよ、同意する」
ルカが頷く。するとテディが「じゃあ、とりあえずさ」と切りだし、ルカとユーリは同時にそっちを向いた。
「ジー・デヴィールがやるとしたらどんな曲がいいか、考えてみようよ」
そして、しこたま飲んだあとだというのに、まるで企画会議のようにカバーアルバムを作るならこの曲、といったリストを作り始めることになった。
「有名な、代表曲みたいなやつを外すってことは、たとえばフーなら〝マイ・ジェネレーション〟や〝ババ・オライリィ〟以外ってことだな」
「好きな曲はいっぱいあるけど、ジー・デヴィールで演るならって考えなくちゃいけないんだろ……なにがいいかな。ジャムらないで考えるのって難しいな」
「……〝ザ・シーカー〟」
ぼそりとテディが云ったタイトルに、ルカとユーリのふたりはゆっくりと頷いた。
「よさそうだ」
「あと、どうせユーリはクリームは絶対演りたいんだろ」
「別に、ブラインドフェイスでもかまわないが?」
ユーリはクリームやブラインドフェイスでドラムを叩いているジンジャー・ベイカーの大ファンなのだ。くすくすと笑いながら、テディはユーリの顔を見つめ、云った。
「んー、〝サンシャイン・オブ・ユア・ラヴ〟や〝ホワイト・ルーム〟以外っていうと、〝バッヂ〟とか?」
「クリームって云うより、クラプトンの曲っていうイメージが強いな」
「ジョージとね」
「〝ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス〟と続けて入れるとかありかな」
「……〝レイラ〟も?」
「そこでそうくるか、ふつう!?」
「うーん、クリームはもうちょっとじっくり考えよう。あとは?」
「キンクスは外せない」
ルカが云うと、テディがうわーっと頭を抱えた。
「いい曲が多すぎる! 絞るの大変だよ」
「絞るったって……絞ると残るのは有名な代表曲になるんじゃないのか」
「そうなんだよね。んー、〝シャングリ・ラ〟くらいならよくない?」
「いいことにしよう」
「判断早いな!」
「だって好きなんだよ」
「あともう一曲、〝セット・ミー・フリー〟も」
「……おまえはほんと、いいセンスしてるよ」
ユーリがそう褒めると、テディは照れたように肩を竦め、何本めかの煙草にまた火をつけた。つられるように、ユーリも一本振り出して咥える。
「あと、ストーンズはやっぱり絶対にやりたいんだけどさ……ぜーんぶ有名な気がして困るよね」
「ストーンズかあ、確かに。ストーンズもビートルズも隠れた曲なんてないよなあ」
「〈ビトウィーン・ザ・バトンズ〉までならどうだ?」
「初期か……それこそ、ほとんどがカバー曲なんだよな……」
「〈ビトウィーン・ザ・バトンズ〉は全曲ジャガー / リチャーズだよ」
「うーん、でもいまひとつこれっていうのがないなあ……このあとのアルバムが良すぎるんだよ」
「あとって、〈ベガーズ・バンケット〉と〈レット・イット・ブリード〉かあ……確かにね。名曲揃いだし……うーん、〝ノー・エクスペクテーションズ〟くらいならよくない……? いわゆる代表曲ってところからはいちおう外れてると思うし」
「そりゃあ〝シンパシィ・フォー・ザ・デヴィル〟や〝ストリート・ファイティング・マン〟に比べりゃあな」
「じゃ、ビートルズは〝ヘイ・ブルドッグ〟で」
「なんだ、えらくすんなり出たじゃないか」
「ルカ、あれのピアノが弾きたいんだろ」
「そ。まあ、歌詞も好きなんだけどな」
「あのヘヴィな感じは俺も好きだ。いいんじゃないか」
そして、その他にもジミ・ヘンドリックスやレッドツェッペリンなどの曲が挙げられていき――
「ゾンビーズ」
「外したくないよなあ」
「でも演るとなると、なんか違うのが多いんだよね……聴くぶんには大好きなんだけど」
「〝シーズ・ノット・ゼア〟か〝タイム・オブ・ザ・シーズン〟かだな……どっちも代表曲だが」
「〝ディス・ウィル・ビー・アワ・イヤー〟もいいんじゃない?」
「……あれは俺の大事な曲だからだめ」
ルカがそう云うと、ユーリとテディのふたりは眉をひそめ、揃って首を傾げた。ルカはひとり、思いだし笑いをするように口角をあげ、云った。
「〝タイム・オブ・ザ・シーズン〟だな。そんなにカバーを聴かないからオッケーってことにしよう」
「いやかなりカバーされてはいるぞ……ジャズみたいなインスト曲が多いのかもしれんが。歌入りでも、なんだったか、コメディ映画のなかで使われてたはずだ」
「スコット・ウェイランドが歌ってたやつだろ。彼の声は好きだけど、あのアレンジは好きじゃないな……」
「でもやりたい。きっとジェシもやりたいって云うぞ」
「だね。絶対弾きたがるよね」
そして全十四曲、なんとか意見がまとまると、三人はとりあえずiPodを使い、オリジナル曲でプレイリストを作ってみることにした。
スピーカーに接続し、試しに聴いてみながら引き続き音楽談義を楽しみ、だらりとソファに寄りかかって酒を飲む。
「なんだかんだ云って、誰もが知ってる名曲も入ってるな」
「ま、いいじゃない。やっぱり演るなら好きな曲がいいってことだよ」
「なかには知名度の高い名曲も入れとかないと、売れないって」
「結局そうなるのか。まあ、ある程度はしょうがないってことか」
「まあ、名曲っていっても若い世代はまったく知らなかったりするんだから、歌い継いでいかないと」
「……俺らも若いんだが」
そういえば、とふと思いだしたように、テディがユーリのほうを向いた。
「ねえ、今日は巻かないの?」
「ばか、おまえ、今日はシュテドリー・デンだぞ、イェジーシェクが来るんだぞ。ウィードなんかやってたら来年の運を逃すぞ」
「……そういうもんなんだ」
普段、信心深いわけでもないのにそんなふうに縁起を担ぐユーリを、テディが意外そうに見つめる。ルカもなんだかおかしそうに失笑し――坐り直して、云った。
「……来年か。来年はもうちょっと、仕事は少なめにゆっくりやりたいね」
「えっ、カバーアルバム作るんじゃないの」
「それをやるにしても、ゆっくりじっくりってことだよ」
ぐい、と呷り空にしたスタロプラメンの瓶をことりとテーブルの上に置き、ルカはうーんと伸びをした。「なにも起こらないで、平和に、やるべきことだけをじっくりやっていいものを作れれば、それがいちばんさ」
それを聞き、ユーリとテディもふっと笑みを浮かべる。
「そうだな。それがいちばんだ」
「……来年も、がんばろう。みんな一緒に」
いつの間にか、窓の外はうっすらと雪のヴェールに包まれていた。
本当にイェジーシェクがやって来そうな、童話のなかに迷いこんだような街の、アール・ヌーヴォー様式の建物にある一室で――三人は和やかに、まるで家族のようにクリスマスイヴを過ごした。
いつもなら真っ先に酔い潰れてしまうテディが、自ら飲む量をセーブして、とうとう眠ってしまったルカとユーリの面倒をみる側にまわるという、それはとても特別な夜だった。テディは、そうしてふたりに寝室から持ってきた毛布を掛けてやったあと明かりを落とし、自分もベッドには行かずふたりの寝顔の見える位置に寝転がった。
「――おやすみ。今日は楽しかった……いい夢がみれそう」
今年もおつかれさま、そしてありがとうの想いをこめて――
Wishing you a very Merry Christmas,
and a Happy and peaceful New Year.
𝖹𝖾𝖾𝖣𝖾𝗏𝖾𝖾𝗅 𝗌𝖾𝗋𝗂𝖾𝗌 #𝟨 "𝖧𝖺𝗉𝗉𝗒 𝖷𝗆𝖺𝗌"
© 𝟤𝟢𝟤𝟢 𝖪𝖠𝖱𝖠𝖲𝖴𝖬𝖠 𝖢𝗁𝗂𝗓𝗎𝗋𝗎
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