第10話

「ん……あれ? お兄ちゃん、もう起きたの?」


「穂花……よかったよぉ~うわ~ん」


「きゃっ、お、お兄ちゃん?」


 大声で泣きだして、寝ている穂花に抱き付いた。


「お兄ちゃんったら……あれ? ここはどこ? どうして手と足が動かないの?」


「はぁ~、はぁ~、ちょ、ちょっと待ってなさい、いま外すから」


 女性が息を切らせてベッドの脇に来た。

 どうやら眠らせた研究員から端末を見つけ、部屋に入ったようだ。

 そして入った部屋には穂花が捕らえられていた。

 入り口からベッドの部屋の途中にある部屋で、敵兵士と交戦していたようで、随分と息が切れている。


「えーっと鍵穴は……電子ロックか、えい」


 手にしたナイフでサクサクっと手かせ足かせを斬り、穂花は自由の身になった。


「よし、行くぞ穂花!」


「うん!」


 穂花の手を取り走り出す……かと思いきや、台に置かれた荷物をちゃっかり回収していく。


「穂花ちゃん、荷物は減らした方が……」


「ダメ! 全部大事なの!」


「そ、そう?」




『い、いけない! 急いで警備兵を呼ばないと!』


「いや、まだいい」


『は? しかし艦長』


「大丈夫だ」


『りょ、了解しました』


 モニター越しに逃げていく大地達を見ている艦長。

 その目は険しいが、何かを期待しているようだ。

 カメラがあちこちに設置されていたのか、大地達の逃げる姿がどこまでも丸映りだ。

 女性が先頭を走り、大地が穂花の手を握り、その後ろをタカシとセキが付いて行く。

 廊下を走っているが、どうやらこの廊下は裸足で走るには少々硬いようだ。




「あ痛!」


 穂花が転び、荷物が廊下に散乱する。


「だ、大丈夫か穂花?」


「う、うん、大丈夫」


 散らばった荷物をみんなで回収しているが、転んだ衝撃で傷でも入っていたのだろうか、黒い楕円形の石が半分に割れ、中から透明な正方形の石が転がり落ちる。




「見つけたぞ! 方石ほうせきだ!!!」


 モニターを見ていた艦長はモニターにしがみ付き、急いで命令を発する。


「副長! あの石だ! あの四角い石が方石だ! 全警備を向かわせて回収させろ!」


『りょ、了解しました』


 副長は急いで指令を発する。




『副長より全警備兵へ。研究ブロック第二十二通路にて侵入者が逃走中。至急確保に向かへ!』


 巨大な宇宙船内部に放送が鳴り響き、遂に本気を出した敵が大地達を捕獲に乗り出した。


「うえぇ!? さっきから侵入してたのに、何で今になって頑張るんだよ!」


「知らないよ! 何か気に障る事でもあったんじゃないか!?」


「さぁ、早く立って、逃げるわよ!」


「うん、ゆっこ先生!」


 女性が穂花に手を差し出し、立ち上がった時に動きが止まる。


「……え? いまなんて?」


「え? どうしたのゆっこ先生」


「何いってんだよ穂花、このお姉さんが祐子ゆうこ先生なわけ……祐子ゆうこ先生だ!」


「ほ、本当だ。どうして今まで気付かなかったんだろう」


「メガネをしてないだけなのにね~」


 すっかり正体がバレてしまい、今までの凛として雰囲気とは違い、町であったゆっこ先生の雰囲気に戻っている。


「もう、この位の女の子ってこれだから……せっかく色を変えたのに」


「祐子先生祐子先生! スパイ!? くのいち!? どっち!?」


「どっちでも無いわよ! もう! 行くわよ!」


 先生が手に持っている機械を見ながら、乗ってきた宇宙船へと急ぐ。

 しかし本気になった相手は、そう簡単に逃がしてはくれなかった。




「はぁっ!」


 祐子先生が壁を走り、進路をふさぐ警備兵を空中蹴りではり倒す。


「やっ!」


 着地と同時に足払いをして、囲もうとした警備兵をまとめて転ばせ、しっかりとみぞおちに拳やひじを見舞いして意識を奪う。


「ふぅまったく、か弱い女の子に集団で襲い掛かるなんて、宇宙人は野蛮人の集まりね」


「俺、祐子先生はか弱いと思ってたけど……」


「今の祐子先生はか弱くないよね」


 大地とタカシがゆっこ先生の戦いっぷりを見て、呆然としていた。

 逆に穂花とセキは拍手をして喜んでいる。


「穂花ちゃんならか弱いし守ってあげたいのに……」


「ん? タカシなんか言ったか?」


「な、何でもない!」


 敵の制圧を終え、先生の号令のもと廊下を進み始める。




 その後も警備兵は次々と現れ、五人に襲い掛かるのだが……祐子先生無双だった。

 そう言えば地球に居る時、重歩兵装備の敵を吹き飛ばしていたが、あれは武器を使ったのではなく、素手でやったのではないかとすら思えてくる。

 壁や天井を縦横無尽に走り回り、飛び道具はない物の、ナイフや拳で全てを解決していく。

 しかし拳が通用しない相手が現れた。


「あ! あれは最初にみたロボットだ!」


 大地達の前に現れたのは、巨大宇宙船に侵入して直ぐの時に現れた、警備ロボットだった。

 楕円形の頭に大きな赤い丸いレンズ、その下に二つの穴、腕は四本あり二本の腕でライフルを二丁構え、残り二本でネットガンを構えている。

 それが六体も現れたのだ。


「祐子先生、ロボットも殴れる?」


「か弱いって言ってるでしょ!? 無理に決まってるじゃない! 逃げるわよ!」


 通路を走って逃げようとするが、隔壁が閉められる。


「わぁ! ど、どうすんだこれ!!!」


「は、反対側……はロボットがいるんだった!」


「あけ~、開いて~」


「ゆ、ゆっこ先生!」


 逃げ道は塞がれ、移動できる場所は警備ロボットが居る方向だけ……先生は覚悟を決めた。


「みんな、そこの隅でしゃがんでなさい。良いって言うまで動いたらダメよ」


 先生は……警備ロボットに向けて走り出した。

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ボクらの宇宙戦争 内海 @utumi

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