第4話

「失敗しただと?」


『はい。現地の生物に襲われてしまい、酷い怪我をして帰ってきました』


 副長の報告に頭を抱える艦長。


「それで、怪我は大丈夫なのか?」


『はい。どうやら毒のある生き物らしく、解毒処置をしております』


「何とした事か、この星の主生命体しゅせいめいたいは人型だと思ったが、我々とは違う生き物なのか」


『いえ、我々と同じタイプの人型です』


「ん? ではなぜ毒がある?」


『人型が、毒を有する昆虫を行使したようです』


「コンチュウ? 昆虫……ああ、小さくて硬くて角のあるやつか」


『それはカブトムシでしょう、違います。映像を見てもらった方が早いので送ります』


 無線越しになにやら音が聞こえる。少しすると艦長の机のモニターに『タッチ』と表示が現れた。

 それを指でさわると、穂花を誘拐しようとした時の映像がながれ、艦長はしばらくそれを見ていた。


「な、なんだこれは! この星の住民はなんと凶暴なのだ! 子供がこんな恐ろしい事をするのか!」


『はい。この星の人型は、戦闘に特化された種族なのかもしれません。こちらも相応の装備で挑まなくては作戦は失敗します』


 艦長はイスに深く座り直し、右のヒジかけにヒジを乗せ、指でこめかみを数回たたいた。


「仕方がない、重歩兵装備の使用を許可する。しかしくどい様だが、住民との戦闘を避け、防衛に徹するのだ。重歩兵装備ならばこの星の兵器は効かない、対象の回収が最優先だ」


『了解しました。そのように実行します』


 無線が切れ、艦長は机のモニターを見る。そこには先ほどの大地達の奮戦っぷりが流れている。


「なんと凶暴な星だ。このような星があるからこそ、早く宇宙を征服しなくては」

 果たしてどちらが凶暴なのだろうか。




 その日の夜。

 またもや大地の家に忍び込む者がいた。暗闇に溶けるような動きは、昨晩侵入した者だ。

 部屋を順番に回り何かを探している。しかし全く物音がせず、古い家の天然アラーム・床のきしみ音が全くしない。


(あった)


 どうやら目的のものを発見したようだ。その目線の先にあるものは、楕円形の黒い石。

 まるで空気が移動するように歩き、黒い石に手を伸ばす。


「ん……おにぃちゃん? どうしたの?」


 穂花が目を覚ました。ベッドで体を起こし、忍び込んだ何者かを見た。

 が、そこにはすでに誰もおらず、開いた窓から風が吹き抜けるだけだった。




 翌日もみんなで家で遊んでいた。遊んでいるのは主に大地とセキだ。


「ごめんねタカシくん、おにぃちゃんがうるさくて」


「大丈夫だよ。それじゃあ次の問題に行こうか」


「うん!」


 穂花とタカシは居間で宿題をやっているのだが、穂花の宿題をタカシが教えている、といった方がいいだろう。タカシは勉強ができるようだ。

 ちゃぶ台に置かれた、麦茶の入ったコップの下が水滴で濡れている。


「よっしゃセキ! やるぞ!!!」


「いっくぞーだいちー!」


 なにをしているのか分からないが、バチバチと何かを叩く音がする。

 そして何かが倒れる音がして、二人は喜んでいるようだ。


「ちょっとゴメンね穂花ちゃん」


 タカシは席を立ち、途中にあった引き戸を二つ開け、庭で遊んでいる二人に文句を言った。


「うるさい! しずかにしろー!」


 タカシの声に動きを止めた大地とセキ。どうやら相撲をしていたようだ。


「なんだよー、いいじゃねーか」


「そーだそーだ」


「宿題手伝ってやんないぞ」


「セキ! 静かに遊ぶぞ!」


「がってんだー」


 庭で虫取りを始めた。

 話し声は聞こえるが、物音がしなくなったので随分静かになった。タカシは安心して穂花の宿題を見る事が出来るなと、居間へ戻っていく。


「おまたせ穂花ちゃん。次の問題はどう? あ」


 穂花はちゃぶ台に頭を置いて居眠りをしていた。昼食を食べた後なので眠くなったようだ。

 タカシはどうしていいか分からず、ちゃぶ台に頭を置いて眠る穂花の寝顔を覗き込んだ。


「かわいいな」


 扇風機は回っているが、まだまだ暑い昼下がり。寝汗をかいている穂花をうちわで扇ぎながら、タカシは寝顔を眺める事にした。

 が、突然ガラスが割れる音がした。


「うわ! さっきよりうるさいじゃないか。静かにしろって言ったのに」


 続いて木が折れる音、何かを叩きつける音、そして壁を破壊したような音と衝撃。


「おい! 流石にうるさすぎるだろう! 何やってるんだよ大地! セキ!」


 引き戸を開けて大地とセキを見る。大地は何者かに踏みつけられ、セキは別の誰かの脇に抱きかかえられていた。


「え? ……なに? だれ?」


 その誰かは全身金属のような鎧を着ており、顔には目らしきものは無いが、タカシが見えているようだ。


「ロボット? パワードスーツ?」


 スタイリッシュな物ではなく、重装備で装甲が分厚いタイプだ。

 セキの百キロ近い体重を、ものともせず抱えている。


「タカシ……ほのかと……にげろ」


 どうやら大地達はこのパワードスーツ達に襲われた様だ。

 パワードスーツは全部で6体。一体なんの目的があって大地の家を襲撃をしたのだろう。


「バカ! お前たちを見捨てて逃げれるかよ!」


 そう言ったのもつかの間、タカシはパワードスーツに顔を掴まれて、放り投げられてしまった。

 戸を破り、居間に背中から落ちると、穂花が悲鳴を上げた。


「キャーーー! え? タカシくん? どうしたの!?」


「穂花ちゃん……にげて」


 居間にパワードスーツが侵入し、穂花に手を伸ばす。

 タカシがその手を掴もうとするが届かない。タカシの目の前で穂花は捕まり、肩に担ぎ上げられた。必死に暴れているが、力の差があり過ぎる。


 穂花だけではない、大地もタカシも、セキも捕らえられてしまった。

 穂花はパワードスーツに担がれたまま、家の外に置いてある、幅の広いバイクのような乗り物で山の方へ飛んでいく。

 そして他のパワードスーツも、三人を担いだまま乗り込もうとした瞬間! 弾かれるように横向きに飛んでいった。


「いってぇ! なんだいまの?」


 どうやら三人とも地面に落ちたが、ケガはない様だ。


「早く隠れなさい」


 姿は見えないが女性の声だけがする。一体何者だろうか。

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