第5話

「早く隠れなさい」


 姿は見えないが女性の声だけがする。一体何者だろうか。

 吹き飛ばされた三体のスーツが起き上がり、周囲を見回している。

 どうやらパワードスーツも、なぜ吹き飛ばされたのか分からないようだ。

 しかし何かを操作し、何かを追いかけ始めた。


 どうやら目に見えない何かを、正確に追いかけているようだ。

 だが大地達三人には、何が起こっているのか分からない。

 パワードスーツの腕にキズが付いた。何かを掴もうとして、反撃されているのかもしれない。しかし以前艦長は『この星の兵器は効かない』と言っていたはずだ。

 一体どんな攻撃をしているのだろう。


 しかし多勢に無勢、何かは吹き飛ばされて家の壁に激突した。

 その隙にパワードスーツ達はバイクに乗って飛んで行ってしまった。




『艦長、緊急の報告があります』


「どうした、副長」


 艦長室でお茶を飲んでいた艦長は、無線に反応して耳に手を当てた。


『重歩兵が攻撃され、腕や胴体などの数か所が破損しました』


「な、なにぃ!? そんなバカな事があるか! この星の兵器ではキズ一つ付かない

はずだ! 原子力を使った爆弾でさえ平気なんだぞ!」


『そのはずです』


「考えられる可能性は?」


『ひとつ、特定の技術だけレベルが高い。ふたつ、未確認の特殊能力を使っている。みっつ、シリウス連合の刺客。この辺りでしょうか』


「シリウス連合か! やつら、もうここを嗅ぎつけたのか」


『どうなさいますか? 重歩兵は対象を確保して、小型艇への帰還途中ですが』


「そうか、確保したのならばいい。しかし、シリウス連合は見つけ次第抹殺しろ!」


『了解しました。そのように伝えます』


 無線が切れた。しかし艦長はまだ険しい表情を崩さない。


「シリウスめ、どこまで我々の邪魔をしたら気が済むのか」




 大地達を助けたらしい人物が姿を現した。黒いラバースーツをまとい、サングラスをかけて黒髪を編んでいる女性が、小型の車に乗り込む。


「お、俺達もつれてって!」


 置いて行かれまいと、三人は慌てて乗り込むと、車は猛スピードで走り出す。


「口を閉じなさい! 舌を噛むわよ!」


 女性がスイッチを押すと、車のトランクが開き、中から小型のジェットエンジンが二基せり出してきた。

 甲高い音が鳴り響き、大地達の悲鳴を置き去りにして走っていく。




 三人は怖くて泣いていたが、その甲斐あって穂花を連れ去った浮かぶバイクに追いついた。

 どうやら穂花は透明な何かに入れられており、バイクの後ろに置かれていた。

 気を失っているのか、グッタリとしている。


「ほのかー!」


 大地が必死に叫ぶも、呼びかけに答える様子はない。

 地面を這うように飛行をしているバイクを追い越し、前に回り込んで進路をふさぐ。


「穂花を、はなせーーー!!」


 車から勢いよく飛び出してドロップキックを浴びせるが、びくともしないどころか大地がはじき返された。


「だいち! こーのー!」


 巨漢のセキが木に体当たりし、棘の付いた木の実を落とす。

 しかし手で払う事すらせず、ただ前進している。


「この! 止まれ!」


 タカシがツルを引っ張り足を引っかけるが、逆にツルごと持って行かれてしまう。


「これでも食らえ!」


 大地の必殺技、蜂の巣投げが炸裂! しかし蜂では重装歩兵には全く効果がない。

 パワードスーツが1体バイクから降りると、大地達を捕らえようと手を伸ばす。

 また大地達が捕まってしまうのか? そう思った時、重装歩兵に通信が入った。


『バカモノ! 原住民に手を出すなと言っただろう!』


『は! す、すみません。でもこいつ等』


『言い訳はいい! 早く連れ帰ってこい!』


『了解しました!』


 艦長からの命令で、慌ててバイクに跨って飛んで行ってしまった。


「ああっ! 穂花、ほのかーー!!」


 大地の叫び声をかき消すように、小型の宇宙船が山から浮かび上がり、バイクが小型宇宙船に入ると、宇宙船は溶けるように消えていく。


「くそ! 逃がさないわ!」


 車を発進させようとした時、低い唸るような音が鳴り響く。

 女性がサングラスのつまみを調整して周囲を見回すと、遠くで光学迷彩されていたであろう巨大宇宙船が上昇を始め、一瞬で宇宙へと昇って行ってしまった。

 舌打ちして3人に声をかける。


「乗りなさい。送るわ」


 車の中から女性に呼ばれ、トボトボと車に乗り込んだ。




 大地の家の前に到着し、三人は降りるように言われたが降りなかった。


「お願いだ! 穂花を、穂花を助けてください!」


「僕からもお願いします! 穂花ちゃんを助けて!」


「お、おねがいします、たすけてー」


 そんな三人の願いに、女性は無言を返した。二度は言わせるな、降りろ、と。

 しかし大地達も引かない。


「俺のたった一人の家族なんです! 両親が居なくなって、叔母さんの家に世話になってるけど、たった一人の、たった一人の家族なんだ!」


 ため息を突き、女性はゆっくり口を開く。


「あの子は私1人で助けるわ。アナタ達は邪魔なの」


 女性の鋭い視線に三人は体を強張らせる。

 黒く肩まである髪。メリハリのある体のラインが良くわかる黒いラバースーツ。目つきは鋭く睨むだけで人が殺せそうだ。


「僕たちにも協力させて下さい!」


「そうだ、俺達も協力する!」


「手伝うからー」


 三人の真剣なまなざしに、女性がため息をつく。


「はぁ。このまま置いて行ったら、勝手に何かをおっぱじめそうね」


「じゃ、じゃあ!」


「そのかわり、私のいう事は必ず聞く事。それと、危険だと判断したら、有無を言わ

さず置いて行くわよ、いいわね?」


「「「はい!」」」


 しかし、3人は早々に後悔する事になる。


「ギャー! 倒れる、倒れるー!」


「ぎぼじわるい、おえ」


「あばばばばばばば」


 女性の運転は荒かった。高速道路を縦横無尽に走り回り、車と車の隙間をヒョイヒョイと入って追い越していく。

 こんな小型車のどこにこんなパワーがあるのだろう。


「騒がないの! ほら、口を開けると舌を噛むわよ!」


 必死に口を押さえるが、押さえると左右に体が揺られて酔いが酷くなる。


「よーっし! 車がいなくなった、やっと本気で走れるわ!」


 女性の言葉に、3人は無表情になった。

 そして一つの事を誓うのだった。絶対に将来はレーサーにならないでおこう、と。

 女性がスイッチを押すと、トランクが開いてジェットエンジンが姿を現す。


「いっけぇーー!!」


 穂花を助けようという誓いを胸に、大地達は意識を失うのだった。

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