ボクらの宇宙戦争

内海

第1話

 宇宙は広い。

 そんな広い宇宙ならば、色々な考えを持つ者がいるだろう。

 『宇宙を支配したい』なんて考える種族がいるかもしれない。

 その種族が宇宙を支配するために探している物、それは『絶対的な力』。

 『絶対的な力』が辺境の惑星にある。

 地球。


 今、巨大な宇宙船が地球にたどり着こうとしている。


「艦長、捜索範囲の選定が終わりました」


 あまり感情を含まない言葉が、無線を通じて艦長の耳に入る。

 艦長席のひじ掛けに右ヒジを乗せ、モニターで情報を確認しながら右手でこめかみを数回たたく。


「よし、ここなら船を隠す事が出来るな。手順に従って進めろ」


「了解しました」


 指示を終えた艦長は背もたれに体重をかけ、天井を見上げる。

 天井はガラス張りで宇宙が良く見える。その中に小さな青い星が見える。地球だ。


「まさか本当にあるとはな」


 十メートル四方の小さな部屋、ここがメインブリッジであり、この部屋には艦長を含めて三人しかいない。二人は艦長の秘書で女性と男性が一名ずつだ。

 艦長の歳は四十前後だろうか、顔は角ばっておりもみ上げは長い。体格が良く、肩の張った制服が良く似合う男だ。


「ついにここまで来ましたね」


「いや、まだ気は抜けない。ここからが勝負なんだ」


 喜んでいる女性秘書と、気を引き締める男性秘書。性格は随分と違うらしい。

 帽子を浮かせ、髪に手ぐしを入れてかぶり直し、微笑みながら口を開いた。


「確かに気は抜けない。しかしやっとここまで来たんだ、素直に喜ぼうではないか」



 

 水の多い星・地球。

 その星の小さな島国の片田舎、山と川がキレイな町で、夏休みに入って遊んでいる子供たちがいた。


「おにぃちゃん、まって、まってってばー」


 山道を自転車で走る男の子の三人の姿と、女の子の姿がある。


「大地いいのか? 穂花ほのかちゃん追いかけてくるぞ?」


「いいんだよほっときゃ」


「でもあのままだと穂花ちゃん」


 舗装されていない山道を必死に追いかけてきた穂花は、ぬかるみにタイヤを取られて転んでしまった。


「転んじゃうぞ」


「転んでからゆーな! ほのかー!」


 慌てて引き返すと、穂花は泣きたいのを必死に我慢しながら立ち上がった。

 しかし涙は流れている。声を出さないのが精いっぱいなのだろう。

 自転車から飛び降りた大地は穂花の前に立ち、両手で穂花の涙をぬぐった。


「痛かったか? よく我慢したな」


 少し遅れて自転車が二台、戻ってきた。

 一人は眼鏡をかけた少年で細身、クラスでは委員長と呼ばれるタイプだ。

 メガネの少年は首にかけていたタオルを大地に渡すと、大地は穂花の服に着いたドロをはらい、ケガをしていないか確認した。


 どうやらケガはなく、腕を少し打っただけのようだ。

 もう一人の少年はとても体が大きく丸刈り、顔が丸く目が開いているのか分からないくらいに細い。

 体の大きな少年は、倒れている大地と穂花の自転車を起こしている。


「だいちー、もうすぐだけど戻るかー?」


「ほのか、痛いところないか?」


「だいじょうぶ」


「よし、もうすこしで着くからな、そしたらノンビリしよう」


「うん!」


 自転車にまたがり、元気に山道を登っていった。

 大地は髪は短めだが、風呂上りにドライヤーを使わないため癖がスゴイ。夏休みに入って遊び回っているから日焼けもしている。特別体が大きいわけではないが、体を動かすのが好きなようだ。


 穂花は髪はセミロングで麦わら帽子をかぶり、赤いフチのメガネをかけている。気が小さくオドオドしているが、兄である大地と一緒に遊びたくてがんばっている。

 大地は小学六年生、穂花は小学五年生。

 夏休みに入ってしばらくたつが、二人とも宿題はやっていない。




 別の日の昼下がり、日差しが強くセミが元気に鳴いている。


「おにぃちゃーん、まってよー」


 今日は山ではなく大きな公園で遊んでいる。

 今日も四人で遊んでいる様だが、鬼ごっこだろうか、穂花は必死に走っているが、ぜんぜん追いつきそうにない。


「大地、なんで穂花ちゃんばっかりタッチするんだ?」


「だってあいつ足おそいもん」


「だいちだったら、オレ達にもおいつけるのにー?」


「足がおそい奴がいけないんだ」


 どうやら穂花ばかりが鬼をしているようだ。しかしこの炎天下、帽子をかぶっていても体力の限界が来るのは早い。

 穂花は走れなくなり、ベンチに座ってしまった。


「ほのか大丈夫か? ほら麦茶飲んで」


 持ってきた水筒のお茶をコップにそそぎ、穂花に渡した。


「ありがと、おにぃちゃん」


 細身の少年が水飲み場でタオルをぬらし、穂花の顔にあてた。


「これで顔ふいたら、冷たくて気持ちいいよ」


「ありがと、タカシくん」


「う、うん」


 タオルで顔の汗をふいていると、体の大きな少年が大きな葉っぱで穂花をあおいだ。


「ありがとセキくん」


 セキは笑顔で返したが、目が細く、いつもニコニコしているから変化が分からない。


「大地、今日は家で遊ぼう」


「えー! もっと外で遊ぼうぜ」


「宿題見せてやるからさ」


「わかった!」


 帰りはゆっくりと歩いて行くようだ。




「ただいまー!」


 玄関のガラスの引き戸を壊れそうな勢いで開けて、走り抜けるように入ったためクツは飛び散っている。タカシとセキは靴を揃えて脱いで、穂花は大地の靴を拾ってげた箱へ入れた。


「あれ? これなんだろう」


 大地の靴をしまう際、何かに当たったようだ。

 当たった物を取り出すと黒い石だった。楕円形で直径は五センチほど、黒いが磨かれており、とてもキレイに見える。


「わぁ、キレイ」


「おーいほのか! ジュースどこだー?」


「あ、えーっとね、冷蔵庫の……」


 石をスカートのポケットにいれ、大地の元へと走っていった。

 かなり古い家のため、板の間のきしむ音がする。

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