第2話

『どうだね艦長、そちらの進み具合は』


 メインブリッジの艦長席に座り、モニターに映る男性を苦い顔で見ている。

 メガネをかけた男性の額は大きく、随分と生え際が後退しているようだ。


「進み具合は順調だ。そっちこそどうなんだ? 新しい情報が手に入ったのか?」


『残念ながら新しい情報は無い。なにぶん手足となって動く者の能力が低い様でね』


「ほ、ほっほぉ~? それは我々現場の人間をバカにしているのか?」


 目元がヒクついている。しかしそれを隠そうともせず、怒りの感情を表に出す艦長。


『バカにはしていない、事実を述べたまでだ。大体何億という船を宇宙中に派遣しているのに、未だに手掛かりすら見つからないとはな。無能な連中に期待などしていない』


「ふざけるな! ロクな情報も無いまま派遣したのはどこのどいつだ! こちらは無

能な作戦に駆り出されて迷惑しているのだぞ!」


『む、無能だと!? ふざけるのはやめたまえ! 我々は種族の為を思って……』


「あ、あ~ノイズだー、声が聞こえないー、これでは貴重な時間が無駄になってしまうー、これにて通信をおわるー」


 そう言って画面を消した。


「まったく、ろくな情報も無いのに、一々連絡をして来るな」


 椅子に浅く座り、背もたれに深くよしかかる。


「それにしても艦長、ノイズは無いですよ。有史以前の話じゃないですか」


「原始人の頭に合わせるには、原始時代の嫌がらせが有効だろう?」


 男性秘書の言葉におどけて返すが、もう一人の女性秘書も一緒になって肩をすくめた。

 しかしその表情は楽しそうだ。


「副長はいるか?」


 モニターをタッチして、副長室へ回線を繋ぐ。

 数秒してから画面が映り、副長の横顔が現れた。


『はい、何でしょうか艦長』


 あまり感情を含まない返事をしながら正面を向く副長。その顔は少々疲れているようにも見える。

 面長の顔で左目にだけ機械的なレンズを付け、髪は短いが几帳面に真ん中から左右に分けられている。


「レーダーの準備はどうだ?」


『順調です。現在十数個の反応が出ており、捜索範囲の選定を行っております』


「よし。原住民に見つからないように行動しろ。争いごとは避けるのだ」


『了解しました。捜索班に厳命します』


 画面が消える。

 帽子を浮かせ、手ぐしで髪をかき上げて帽子をかぶり直す。


「反応がある……か。ここまでは今までと同じだ」


 艦長はこの調査は二回目で、一回目は見事に空振りだった。その時も対象の星からはいくつも反応があったが、全て調べても何も発見できなかった。

 だからではないが、今度こそは、という気持ちもあり、どうせ今回も、という諦めもある。


 しかし反応がある以上は調べなくてはいけない。

 他の星を調べている船の中には、調べて何も無かった星を滅ぼしたり、無差別攻撃を仕掛けるという事例があった。

 【宇宙の支配は平和のため】その言葉を信じて調査をしているが、その言葉を真に受けるほど夢を見ている訳では無い。

 少なくとも無差別攻撃という蛮行を、少しでも減らせれば良い、そう願ってやまない。




「まって~、おにいちゃんってば~」


 太陽が照りつける昼下がり。今日は山ではなく川で遊ぶべく、大地、タカシ、セキ、穂花の四人は自転車を走らせていた。

 ……相変わらず穂花は遅れているようだ。


「遅いぞーほのか! 遅いと置いてっちゃうぞ!」


「や~だ~、まってよ~」


立ち漕ぎをしながら必死に追いかけているが、中々追いつかない。

 大地とセキはスイスイと先へ進むが、メガネをかけているタカシはゆっくりと走っていた。


「穂花ちゃん、大丈夫だよ、俺は場所を知ってるから、焦らずに行こう」


「う、うん、ありがと」


 安心した穂花は自転車を漕ぐペースを落とす。それに合わせてタカシもゆっくり走る。

 しばらくすると、岩場の向こうで遊ぶ大地とセキの声が聞こえてきた。




「対象が移動しただと?」


「はい。微小ながらも移動したようです」


 副長からの無線連絡が入り、艦長は席について画面を確認した。


「ふむ……降下予定場所の近くだが、反応が消えないエネルギー源か。地震や台風ではないようだが、どうして発見できた?」


「この星の技術レベルでは、存在しないはずのエネルギー源に限定して探しました。いまだに原子力がエネルギー源のようなので、簡単に見つけられました」


 この男、副長は優秀である事に間違いない。重大な欠点はあるが、そこは艦長の指示で何とでもなる。対象の捜索も艦長の指示書に書いてあったことだが、恐ろしく優秀だ。


「そうか。では速やかに着陸したのち、艦のカモフラージュをし、捜査隊を派遣する」


「了解しました。そのように実行します」


 無線が切れ、艦長は机に表示されたモニターの地図と数字を見つめていた。


「ここまで来るのに数年かかった。長い旅も、もうすぐ終わる」


 それから数分後、目に見えない巨大船が地球に着陸し、山に溶け込んでいった。

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