第9話

「お腹空いた~」


 通路を走りながら、セキは大きなお腹をさすりながらぼやいた。


「バカ、いうなよ! 俺だって腹減ってんのに!」


「そうだぞセキ! 今は一刻も早く、穂花ちゃんを助けなきゃいけないんだぞ!」


 重歩兵装備に傷をつけた一行は、腹が減ったとかどうとかで喧嘩をしていた。


「これでも食べてなさい」


 先頭を走っていた女性が、ラバースーツのポケットから小さな豆を出すと、セキの口の中に放り込んだ。


「ん~、なにコレ~、甘くておいしぃ~」


 すぐにのみ込んで終わりかと思ったが、噛み応えがあるのか、ずっと口を動かしている。


「ほら君たちも」


 ポイポイと大地、タカシの口にも放り込む。

 すると頬を緩ませて、美味しそうに口を動かしている。

 走っていた一行だったが、女性が立ち止まった事で大地が女性の腰にぶつかり、タカシは大地の頭にアゴを打ち、セキがぶつかった事で全員が転んだ。


「あいたたたた」


「おねーさん、いきなり止まらないでよ」


「アゴ……アゴ打った……」


「ご、ごめんねタカシ~」


 立ち上がり、女性は手に持っている何かを見ながら、仕切に周囲を見回している。


「場所的にはここなのに、大きすぎて高さの感覚が分かんないわね」


「穂花の場所? ここなのか!?」


「ほーのーかーちゃームギュ」


(バカ! 大声を出さないの!)


(ムギュ、ムギュ)


 女性に口を押さえられ、タカシは小声で返事をする。

 ここに来るまでに扉らしき物はあったのだが、扉の開け方が分からず素通りしてきた。

 しかしほぼ一本道で、通路が他に繋がっているようには見えなかった。


 つまり扉の開け方が分からない以上、この一本道を進むしかなく、逃げも隠れも出来ないのだ。

 ……いや、隠れる事は可能だったか。

 とは言え今は前に進むしか出来ない。




 ある通路で兵士達が数名歩いている。


「なぁ、侵入者なんてさ、随分と前時代的だな」


「全くだな。侵入したところで船はオートでも動くし、持ち運べる武器じゃ内壁は破壊できないのにな」


「シリウスの連中、気でも狂ったか?」


「俺、シリウスを見た事ないんだよな……ん?」


 兵士の一人n肩から下げていた武器が、何かに当たった。

 振り向いて確認するが、そこには壁しかない。

 首をかしげながら、中腰になって壁を触ってみると……柔らかかった。


「ん~? 副長が言ってた、壁が硬くて危険だから、クッション材を入れるって奴、もう工事したのかな?」


 今度は立ち上がり、正面の壁を触るとプニプニしていた。


「お~い、何やってんだ、置いて行くぞ~」


「あ、今行く!」


 兵士は走って合流し、角を曲がって行った。

 少しして……壁がせり出してきた。


「あ~、お腹がくすぐったかった~」


「セキの腹は柔らかいからな!」


「あれ? どうしたんですかお姉さん」


 女性は両腕で胸を隠し、頬を膨らませて真っ赤になっていた。


「な、何でもないわよ! ほら行くわよ!」


 ツカツカと歩いて行く女性を、大地達三人は不思議そうな顔で見ていた。




「ねぇお姉さん、穂花の場所はまだ分からないの?」


「今探してるわよ。それにこの船が大きすぎて、マッピングが中々進まないの」


 女性が手にしている小型の装置には、どうやらオートマッピング機能が付いているようだ。

 その装置で穂花の場所も探しているらしいので、小さな割に優秀だ。

 相変わらず白い通路が続いているが、ここら辺は扉がほとんどなく、ひたすら通路が続いている。


「それにしても、この扉ってどうやって開けるんでしょうか。カードを入れる所もありませんし、生体センサーでも付いているんですか?」


「生体センサーって、キミ、随分と詳しいわね」


「僕、SFって大好きなんです。宇宙戦争物は結構読んでます」


 勤勉なタカシだが、どうやら趣味も色々とあるようだ。


「そのSFでは、生体センサーで部屋に入っているのかしら?」


「最近は少ないですね。今の流行りは専用の端末を使うパターンですね」



 

通路を慎重に進んでいると、少し前の扉が開いた。

 慌てて体を白くして壁に張り付く。


「あ~もうやってらんね~。なんだよホウセキって、どんな物かも分からないんじゃ調べようがないじゃないか」


 研究員らしき人物が出てきたが、四人に気が付くことなく前を歩いて行く。

 扉は閉まってしまったが……女性が手を伸ばし、研究員の目を覆うと、ストンと気を失う様に眠ってしまった。


「ごがぁ~……すぴぃ~~~」


「わ、何々いまの!」


「睡眠薬じゃないですよね?」


「そんな事しなくても簡単に寝れない~?」


「そんな事よりも、扉を開ける物を探すわよ」




『艦長、所持している物を全て並べてみましたが、どれがホウセキなのか分かりませんでした』


 モニターに映る副長は、更にその向こうのモニターを見ていた。

 そのモニターには白い検査服を着た穂花が映っており、ベッドに手かせ足かせで大の字に固定されている。


 全く動かないが、恐らくは眠らされているのだろう。

 その横にある台には穂花の所持品が並べられている。

 スマホ、飴、楕円形の黒い石、着ていた服、タオル、ブラシ。

 反応のある物は全て並べた様だが、小さすぎてどれがホウセキなのか分からないようだ。


「……無いな。その子供から反応があった事は間違いないんだな?」


『それは間違いありません』


「ならばそれでいい。このまま本星へと戻れば、本当にホウセキがあるかどうかわかるだろう」


『了解しました。それでは子供はどうしますか?』


「一応連れていけ。ひょっとしたら、体内に取り込んでいるかもしれないからな』


『ではその様に……ん? 誰だコレは』


 副長がモニターを見ていると、何者かが映り込んだ。

 大地達だ。


『穂花! 穂花しっかりしろ!』


『穂花ちゃん!』


『ほのかちゃん起きて~』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る