第8話

 ハイパージャンプを終えた宇宙船は、地球から飛び立った巨大宇宙船の側に現れた。

 巨大宇宙船は……いや違う、地球から飛び立ったのは宇宙船は先端の一部分だ。

 本体は全長100キロメートルを超える化け物サイズだった。


「な!? なんて大きさなのよ! こんなので地球を攻撃されたら、ひとたまりもないじゃない」

 



「ん? 今重力加速が観測されましたが……、ああ、またこの衛星によるモノですか。それにしても大きな衛星ですね、青い星を護る様に鎮座している」


 巨大戦艦の一室で、副長が計測器を見ていた。

 どうやら衛星、月からは、よく重力波が観測される様で、その度にアラームがなるのでうっとおしいようだ。


「それにしても、ホウセキがどこにあるのか分かりませんね。あの少女が持っているはずですが、一体どれなのやら」


 モニターの一つに穂花が映し出されていた。

 穂花は……白いワンピースを着せられ、実験室のような部屋でベッドに寝かされていた。




 宇宙船は巨大宇宙船の表面をギリギリの距離で飛び回り、侵入できる場所を探していた。

 底面のセンサーが、とある場所で反応する。


「あ、ここは装甲が薄そうね。えーっと? うん、通路も近くにありそう、ここに決めた!」


 小型ブースターを数回ふかし、ゆっくりと巨大宇宙船に張り付くと、底面から巨大宇宙船の装甲を溶かす筒がせり出し、ジワリジワリと装甲が溶けていく。

 装甲を貫通すると、筒の先端が開き通路が完成する。


「さあみんな、行くわよ!」


「「「おー!」」」


 宇宙服を着た四人が侵入すると、船内でアラームが鳴り響く。


『侵入者を確認 エンジンブロック 第十八区画 三番通路』


 その三番通路はとても広く、横幅五メートル、高さは三メートルはあるだろうか。

 床は緑色のタイルが並べられ、壁と天井は白い。


『警備隊の準備を    完了 至急向かわせます』


 どうやら警備隊がこの通路に来るようだ。

 急いでこの場を去らないといけないのだが……女性は壁と床を手で触り、まじまじと観察している。


「お、お姉さん! 急がないと誰か来ちゃうよ!?」


「ん~、ちょっと待って、もう少しだから」


 そんな事をしているものだから、通路が閉鎖され、どこへも逃げられなくなってしまった。


「うわぁ! どうしよう! ここから逃げられなくなっちゃった!!!」


「隔壁が降りちゃった。降りてきた時の感じからして、隔壁は三枚ありそうだね」


「うわ、硬いなこれ~」


 何故か大地以外は落ち着いている。

 諦めているのか、それとも女性を信じているのか。


「よし! 分かったわ!」


 女性が声を上げると同時に、隔壁が開いて警備隊が姿を現した。

 警備隊と言っても、鉄がむき出しのロボット警備兵であり、人型の上半身と下半身には三つのタイヤが付いていた。

 楕円形の顔には大きく赤い円があり、その下に小さな穴が二つ開いている。

 肩からは左右二本ずつの腕が出ており、ライフル銃を二丁、捕獲用のネットガンを1丁もっている。


 その警備隊が顔のカメラを使用して通路をスキャンしている。

 光学、赤外線、紫外線など順番に使用し、通路内に潜む侵入者を探している。

 カメラの中央には射撃用のサイトが表示されている。

 しかし各種カメラで調べても何も見つからず、警備ロボットは通路内に侵入する。


 タイヤを回転させ、ゆっくりと通路を移動しながら調べている……しかし何も見つけられず、反対側の隔壁まで到達する。

 体を反転させると、通路を戻りながらもう一度調べているが、やはり何も見つからず、隔壁は解放され、ロボットはどこかへと去って行った。


(いった?)


(いったね)


(いきましたね)


(いった~)


 壁から真っ白い姿をした何かがせり出し、ロボット警備兵が去った方向を見ていた。

 大地達だ。

 大地達の体は通路の壁と全く同じ色をしており、密着すると何も無いように見えていたのだ。

 その真っ白な姿も、ゆっくりと元の姿に戻っていく。

 侵入した際に使った筒も、元の色に戻っている。


「うっひゃ~! なにこれ忍者みてーだ!」


「隠れ身の術みたいだね」


「手裏剣もあるの~?」


「無いわよ! 忍者じゃないから!」


 どうやら忍者扱いされるのが嫌なようだ。

 すっかり元の姿に戻った四人は、ロボットが去った方向とは逆の通路へと進んでいく。




「侵入者が消えただと?」


『はい。侵入者が確認されてすぐに隔壁を閉じたのですが、すでに姿は無く、警備ロボの各種センサーにも反応はありませんでした』


 ブリッジで副長から報告を受けているようだが、艦長はその報告に懐疑的だった。


「そもそも侵入者は何者だと思う?」


『恐らくはシリウス連合の手の者でしょう。ホウセキを奪いにいった際に邪魔をした者の仲間だと予想されます』


「……そうだな。あの星の連中にクロススター号に侵入する術は無いだろう。シリウスめ、いつの間に辺境の星にまで手を伸ばしたのやら」


『シリウスも焦っているのでしょうか』


「かもしれんな。確か少し前の戦闘では、シリウスの第七十八方面軍の六つの部隊が壊滅したはずだ。最近は我々の勝ちが続いている事もあり、なりふり構っていられないのかもしれんな」


『手負いの獣は何をするか分かりませんからな』


「まったくだ。我々も気を引き締めねばならん。侵入者の調査は継続しろ。警備ロボだけではなく、人による調査も並行して行え」


『了解しました。引き続き調査を行います』


 モニターが消え、画面には難しい顔をした艦長が映る。


「……老けたかな?」


 モニターを鏡代わりにし、鼻の両脇から伸びるほうれい線をさわっている。


「大丈夫ですよ艦長。その方がシブ味が増しますから」


「男の人も、加齢って気にするものなの?」


 秘書の二人が艦長を見、フォローになっていないフォローをしている。


「昔より寿命が延びたとはいえ、やはり年は取りたくないものだよ。それよりも、この星域はシリウスのどの艦隊の管轄かね?」


「この場所を管轄している艦隊はありません。なにぶん銀河の隅っこ過ぎるので……我が軍でも僕達が初めて来ましたから」


「もっとも近い艦隊でも、第百十方面軍ですが、ここから四百光年は離れています」


「そうか、そうだな。こんな秘境に、わざわざ戦力を裂く意味など無いからな」


 帽子を浮かせ、髪に手ぐしを入れてかぶり直す。


「では、重歩兵装備に傷をつけた者は一体……」

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