第10話 over extended.
一晩中、彼女に抱き枕にされて眠った。
眠る彼女の腕の力は、優しかった。眠るまではがちがちに抱きしめられて、まるで生きた心地がしなかったけど。
彼女の寝顔。幸せそうだった。
自分も、それを見て、どうしようもなく眠くなって。彼女をそっと抱きしめて、眠った。ひとりじゃない夜は、はじめて、だった。人のぬくもりが、こんなにも暖かくて、安心するものだとは、思わなくて。ちょっとだけ、泣いた。
彼女の気持ちが、ちょっとだけ、分かった気がする。ずっと、こうやって。ふたりで抱き合って、抱き枕みたいな感じで眠りたかったんだと、思う。
そんな彼女に、自分は。踏み出せなくて、ずっと。さびしい思いをさせた。だから。これから。一緒にいる。ずっと。これからも。
夢みたいな時間は、夢とともに、すぐ過ぎ去って。
朝が来た。
午前四時。
彼女を起こさないように、そっと、起きる。
「よし」
ごはんを作ろう。彼女はお風呂に入るかもしれないから、お風呂も沸かそう。掃除は、彼女がお風呂に入っている間にしよう。
彼女の寝顔を、確認する。ちょっと幸せそうな、笑顔の寝顔。
これから。
自分のことを想って、彼女が流した涙の数だけ。
自分が、彼女を笑顔にしよう。
そう決めた。
まずは、ごはんから。
流した涙の数だけ 春嵐 @aiot3110
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