流した涙の数だけ

春嵐

01

 不安定な恋愛だった。

 彼は、いつも来たり来なかったり。来るときは、かもがねぎを背負ってやってくる感じ。キッチンで料理をはじめて、そして、おいしいごはんができあがる。

 彼のごはんはおいしいので、ほぼ無限に食べることができた。おなかいっぱいになる。

 その後、雑談をしたり、ゆっくりお風呂に入ったり。彼は食器を洗ってから、ときどき掃除を始めたりして。


 そんな日常も、彼がいなければ、味気ない普通の女のひとり暮らしだった。

 コンビニで買ったスイーツと、スーパーの安売りのお弁当。あとお酒。それをとりあえず食べて、携帯端末を少しだけいじって、あと寝る。それだけ。


 普通の生活だから、特に不満はなかった。可もなく不可もない。そんな日々。


 その中で、彼の存在だけが、特殊で。光り輝いているような感じがする。

 彼が部屋に来ると、なんだか、暖かい気持ちになる。心がじわっとする。ありふれた、恋愛感情。


 一緒のごはんを食べるけど、お互いの手にすらさわったことがない。その一線は、越えてはならないような、気がする。踏み込めなかった。彼を失うことが、こわいのかもしれない。

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