03

 目覚ましのアラームで起きた。携帯端末を探す。アラームを止めて、ゆっくりと起きる。昨日何時に寝たんだっけ。まだ寝たほうがいいかな。


 いい匂いがした。


 机の上。ごはんがある。彼のごはん。


「あっ」


 彼を呼ぼうとして。書き置きに気付く。


 寝ていたので、ごはん、作っておきました。また会いましょう。


 そう、書かれていた。


「起こしてよ」


 あなたが来たなら、よろこんで起きるのに。

 書き置きを何度も読む。彼が来たことを、確かめるように、何度も読む。心が、ちょっとだけ暖かくなる。


 ごはん。

 食べた。

 おいしい。


「まだ、ほんのすこし暖かい」


 まるで、死体を見つけたサスペンスドラマみたいな言葉。


 ごはんが暖かい。

 彼は、ちょっと前まで、ここにいた。


 おいしいごはんを、ゆっくり噛みしめながら。

 涙が、ちょっとだけ出てきた。おかしいな。彼がいない、いや、さっきまでいたってだけなのに。なに泣いてんだろわたし。思春期かな。


 ごはん。やっぱり、おいしかった。

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