第195話 服が同じだの件

 謎の白装束の男たちに捕らわれてしまったアリアを探すため走り出したリュウトとその後を追いかける仲間たちだったが、男たちは見つからず、泊まっていた宿のある村にまた戻ってきてしまっていた。


「くそ……」


 村の入り口で、リュウトはがっくりと肩を落とした。自分がもっと強ければこんなことには……。いつもそんな思いばかりしてきているのに、まったく強くなれない自分に苛立つ。


「オレのせいだ……オレが、弱いから」

「リュート、違う。お前のせいじゃない。悪いのは悪いことをする奴らであって、お前のせいじゃない。油断していたというのならオレだってそうだ」

「ゼルド……。でもオレはアリアをどんなことがあっても守るって、決めてたんだ。それなのに……。いつもいつも、不甲斐なくて情けない……」

「リュート……」

「ぞな……」


 仲間たちの沈黙の中、不意に大声をあげた。


「あ……っ!」


 よろけながら前に進み出る。


「見つけた」


 リュウトは一直線に走り出した。


「見つけた!」


 小さな村は、村人が数十人程度外に出て静かに仕事に従事していた。その中に一人、大人しそうな若い女性がのんびりと歩いていた。その女性に向かって、リュウトは走り出していた。そして、逃げらないように飛びついた。


「きゃあぁっ! な、何をするんですっ?!」


 リュウトが覆いかぶさるようにして二人は地面に倒れこんだ。間髪入れず、女性の服をビリビリと破き始める。


「や、やめてくださいぃいっ! だ、誰か、助けて!」


 女性が助けを求めて叫び、その声に気が付いた村人たちが顔をあげる。仲間たちはあわててリュウトを止めに入った。


「どうしたんだよリュート!」

「やってることが思いっきり不審者よ、リュート!」

「変態ぞな!」

「お、おい。その人が、一体なんなんだ?」


 リュウトは剣を抜き、女性の喉元に突き付けた。


「お前! 動くと殺すからな!」

「ひぇぇっ!」


 辺りは騒然としだした。突然女性に乱暴を働いた青年は武器を持っているため、村人たちは止めに入れず、うかつには近付けない。


「これだ! みんな、見てよ!」


 リュウトは破いた服の断片を集まってきたみんなに見せた。


「これが……何?」

「よくみろよ。アリアを連れ去った白装束の男たちが着ていた服の刺繍と、同じものだ」

「え、それで……?」

「この女は、あいつらの仲間に違いない!」


 剣をさらに女性の喉元に近付けて、問いただす。


「お前、アリアを連れ去った奴らの仲間だろ! 正直に白状しないと殺すからな。オレは本気だ」

「し、知りませんっ! で、でもぉ……」

「でも?」

「この刺繍のことでしたら……お話できることがありますので、どうか、どうか剣を収めてくださいぃっ!」


 少し考えて、剣をおろした。


「妙な動きをしたら殺す。嘘をついたらすぐ殺す」

「ひっ」


 殺気立つリュウトをゼルドがなだめ、腰の力が抜けて半泣きでしゃがみこむ女性に話しかけた。


「仲間の気が高ぶっていて、すまないな」

「い、いえ。ビックリしましたが……事情があるようですね?」

「ちょっとな」

「わたしでもお力になれることがあれば……でも、あの、その前に……」


 ゼルドはラミエルに指示した。


「ラミエル、この人に合いそうな服を適当に買ってきて、着せてやってほしい」

「わ、わかったわ……」


「ふぇ……へくしゅっ」


 女性はビリビリに破かれた服から肌が見えないようにおさえていたが、風邪を引いてしまったようで、このままでいさせるのは可哀想だった。


     *  *  *


「お前! 絶対に嘘をつくなよ」

「神に誓って、正直にお伝えいたします」


 ラミエルが適当に買ってきた服に着替えた女性は、アーヤと名乗った。


「この刺繍の文様は、エルドゥリース教団の教徒である証なのです」

「エルドゥリース教団?」

「ああ! そうか、道理で見たことがあるような気がしていたがそうか、教団のか」

「ふーん……」


 ゼルドとラミエルはわかったようだ。


「白魔法の使い手を養成する巨大な教会だ。帝国領のどこかにあると聞いていたが、この近くにあるのか」

「ええ。少し歩きますが、この街から北西へ進んだ場所に」


 アーヤは北西の方角を見上げ、微笑んだ。


「わたしは教団で神に仕えています。白魔法もある程度は使えます。この村へは月に一度、祈祷と布教をしにやって来ていました。今日は買い物に来ていたのですが……」

「エルドゥリース教団……。そこに、お前の仲間がいるんだな!」

「リュート、まだこの人が敵か味方かわからないんだ。礼儀を忘れるな」

「そんなの必要ない!」

「おい……」


 冷静でいられないリュウトに代わって、ゼルドは詳しいきさつを話した。


「そうですか……。わたしの仲間がアリアさんという方を連れ去った……かどうかはわかりませんが、教会にお連れすることはできますよ。教会は、いつでもどなたにでも開かれています」


「罠だ!」


 リュウトはこらえきれず叫んだ。


「こんなの、どうみても罠じゃないか! 今までの流れから、もうすべてが罠に思えてくる。ここまで全然いい道のりじゃなかったからな! 異世界って何なんだよ、もっと楽なところにしてくれよ! どうしていつもこんなにつらい世界に来たんだよおおお!」

「リュート、じゃあお前はどうするんだ? 罠だと思うなら、何か策を考えないと」

「策なんて考えてる場合じゃない! 行く! 行ってアリアを助けるんだ。こうしている間にも……」

「わかった。早速向かおう。でもこういうのはあれだが……」

「ぞな?」

「やっぱり北へ向かうことになるんだな……」

「……」

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天空の姫君と異世界の竜騎士 島居優里 @shima_y

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