帰りはこわい
退屈な授業はアッという間に過ぎ去り、下校時刻となった。
帰宅する為に学校の校門でましろを待つ
正直、帰宅まで一緒となると
然し、随分と待っているがましろは一向に姿を見せない。
まだ、待ち
俺は部活をしていない。それは両親の方針だからだ。
『部活に無駄な時間を費やす位なら、勉学に
帰宅すれば直ぐに机に向かう姿勢を見せておかないと、両親に
ただ、ましろは立場が違う。俺に気をつかっているのか分からないが、自由自適に生きて部活や恋愛など何でもできるはず。
あれこれと考えていると、ニヤニヤするましろが近寄って来た。
「お兄ちゃん、お、ま、た、せ、うふふ」
恋人と待ち合わせているが如く
ましろの好意を
「あ、お兄ちゃん、待ってよ。怒らせたのなら謝るからぁ」
◆
夕焼けが俺達に降り注ぐようだ。茜色の光が優しく包み込む中、ましろを引き連れて十字交差点に差し掛かった。
目端に白いものが映り込むのが見えて、
十字交差点の隅の方に白い菊の花束が手向けられている。
「なぁ、ましろ……今朝ここを通った時は気が付かなかったんだが、あそこに花束なんてあったか?」
「え!? あは、あはは……
背中越しに聞こえたましろの声音は、驚きからトーンが確実に下がった。赤の他人ならいざ知らず、兄妹の俺にならはっきりと分かる。見られたら不味い。見てはいけないものを見た。そう言う事だと……。
後ろを振り返ってはいけない。
頭に過ぎった瞬間、身体中に悪寒が走った――。
鳥肌が総立ちして恐怖で
決して、後ろを振り返るな。
頭の中で
駄目だと分かっているが、どうしても振り返りたい。そこにましろがいる事を確認して、心底に安堵したい。
振り返るとそこにいる。
何時もみたいに
そう信じて、ゆっくりと肩越しに振り返ろうとした時――。
「お兄ちゃん! ダメ! 振り返っちゃダメ!!」
ましろが強い口調で制する。
身体が瞬時に硬直して、
「な、なぁ、ま、ましろ。な、何で、だ、駄目なんだ……」
「振り返らずに聞いて! ましろは、お兄ちゃんの事が好きなの! お兄ちゃんが、いなきゃ生きていけないの!!」
「き、急に、な、何を言って、いるんだ、ま、ましろは……」
「恥ずかしいから……お兄ちゃんは絶対に、ましろへ振り返っちゃダメ!」
頭が
取っている行動は不可解過ぎるが、“好き、生きていけない”その言葉が
それは心地よくて、胸が熱くなり生命力が
妹とは言え、想われるのは悪い気はしない。
それよりも今度は、
「……知ってるんだ。お兄ちゃんが勉強を頑張って、ずっとパパとママから
温かい言葉が深く胸に突き刺さる。
ひたすら孤独に戦い、両親の魔の手から守って来た。それを
使命感が報われた激情に包まる中、スッと肩の荷が下りた感じがした。
強い兄貴で在り続けなければならない。泣き虫な弱い兄貴の姿を見せられない。そう思うと、振り返る気にはなれなかった。
ましろは話を続ける。
「……ましろは寂しいんだよ……だからね、“とおりゃんせ”を思い付いたんだ……」
とおりゃんせ。その言葉に引っ掛かった瞬間、昔の記憶が
俺は勉強の過程で民
息抜きがてらに地元の民謡を調べていくと、
それは
魂だけ
とおりゃんせに
死者の骨を食べる。
死者の代替えとする生命力を必要とする。
生きる希望を抱き続けねばならない。
帰り道は反魂の法を実施した者が●●振り向いてはならない●●。途中の文字が塗潰された文言。
と、難題も注記されていた。
だが何故、ましろは急に、この話を持ち出した!?
自問自答していると、脳がやけにチリチリと痛む。
振り返ってはいけない、辛い過去に。
両親へ服従してきた俺の
半年前のある時、両親と大学進学で面と向かって話し合った。
両親から操り人形のように操られてきた事に嫌気が差して、両親が望む大学よりも民俗学が専攻できる別の大学へ進みたいと願った。
至極当然の事、両親と言い争いになった。
両親は俺の嘆願を一切受け入れず、『お前が
そう、ましろからも自由を奪うと
この先も両親の期待へ応え続けねばならない。両親が敷いたレールを永遠と自由を奪われ続けて歩かされる。
絶望感で打ちひしがれ、
多量の薬を服用して意識
そんなある日、意識が
通りすがる車のヘッドライトが
光に
幼いましろと見上げた満天の夜空は、本当に綺麗なものだった。漆黒の大海の中でキラキラと光輝する星々の中に見つけた北極星は、希望の星。
興奮で胸を膨らませて北極星を指先でスッと指し示し、ましろへ
『ましろ、あの北極星は希望の光なんだ。真っ暗な海原を航海する時は、あれを目指して進むんだ。あれを追い掛けていれば、いずれ新天地に辿り着ける。きっと僕達は明るい未来を見る事ができるんだ』
その言葉を思い出した時、車のヘッドライトに希望の光を見出して、光へ吸い込まれるように路上へ飛び出していた……。
全てを思い出した瞬間、あの時覚えた絶望感が心を一気に塗潰す。
ドロドロとした泥のような気持ち悪いものが身体中を巡り抜けると、生きる気力を瞬時に失っていた。
「なんで、どうして蘇らせた!! 苦しみから漸く解放された俺を!! 死なせてくれ!!」
叫んだ
そこにいるのは、
身動きもしないでそこにそうしていて、目だけが生きている感じがしたが、それは
「理解してくれ……」
と洩らした刹那、ゲホゲホと
ゴボゴボと身体の中から湧き続ける紅い液体。最後に口からドロドロとした紅い粘液が
何も感じなくなった……。
また、同じところで失敗した。何がいけないの? 動物はダメ、パパでもダメ、ママもダメだった。
そうだ!? 次はあの子を部屋で生贄にする。
今度は、絶対に、成功させるから……心のポッカリを早く埋めてよねぇ……お兄ちゃん……。
ましろとお兄ちゃんは、ずぅ~と一緒だよぉ……だからね、生きたいと強く想って欲しい……。
(了)
まっしろな想い 美ぃ助実見子 @misukemimiko
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