第五話 騎士団長と約束

「そのような聞き分けないことを仰らないで頂きたい」


「お断りします」


「ですから勇者様」


「お断りします」


「だから」


「お断りします」


「・・・」


「お断りします」


なんだか怖いよセツナ。

声色変えずに表情も変えずのただ全く同じことを繰り返してるし。

取りつく島もなさそうな状況に、たまらずルーカスさんが声をかける。


「のう、セツナ殿」


「お断・・・、え、えっと、なんですか?」


よかった。ルーカスさんまで拒絶はしなかった。


「この者が無礼を働いたというのはわしもよく承知しておる」


「私が何をしたと」


「黙っておれ。貴様の高圧的な態度が総ての元凶なのだぞ」


「私は何も」


「黙っておれ」


「・・・」


納得がいかない、という表情。

憎々しげにルーカスさんと何故か私を睨み付けて1歩下がる。


「重ねて言おう。この者の無礼を許せとは申さぬ」


「・・・はい」


「だが、セツナ殿が勇者の器を持つことは事実。

 である以上、ほかの勇者の器所持者と共に

 行動して頂くのが1番であるとおもうのじゃが」


「嫌です」


「何故ですかな?」


「見も知らない人と一緒になんてなりたくありませんし、

 勇者の器というのがどれほどのものか知りませんし

 理解する気もないですが、

 そんなもののために振り回されたくありません」


「ふむ・・・」


「なんということを!勇者様」


「黙っておれと言っているのが聞こえんのか?追い出されたいか?」


「追い出す?あなたにそんな資格があるとでも?

 私は教会より選ばれここにいるのですが?」


「なるほど、つまり侯爵である私より偉いと?」


「・・・なんですと?」


侯爵?あれ。騎士団長じゃないの?

というか侯爵ってかなり偉い人じゃなかったっけ??


「次はないぞ。黙っておれ」


「・・・」


今度こそ沈黙するローブの人。

もうローブでいいよね呼び名。話したくないし。


「セツナ殿」


「・・・なんですか?」


「一応、助言として申し上げておきますが、

勇者の器があるのです、勇者のパーティにおられるほうが

安全の保障はずっとされるものになると断言しますぞ」


「何故です?

勇者こそ危険なのでは?」


「無論いずれは災厄とまみえる為にも危険になるでしょうが、

それまでは、勇者と名乗るに相応しい実力を身に纏われるまでは、

我ら騎士団が全力を持ってお守りいたしますゆえ」


「・・・」


勇者ははじめから強いわけではない。

鍛えてはじめて強くなる。

その強さの上限?そして成長速度?が常人より

ずっと髙いからこそ勇者が勇者たる所以。

強くなるまでは、騎士団が勇者を守ってくれる。

そういうことらしい。


「・・・」


「それでも・・・断られますか?」


「お断りします」


「左葉か」


ならば致し方ない、と深く息をつき、


「であれば、普通の召喚者同様の扱いとなるが、宜しいか?」


「まて騎士団長、勝手にそのようなことを!!」


「いい加減にせい!誰か!」


ルーカスさんの呼びかけに、

奥側の扉が開き、同じく甲冑姿のひとが二人ほど入ってくる。


「神官長どのをお連れせよ」


「は・・・?しかし」


「勇者様の気分を害した。罪状はそれだけで十分じゃろう?」


「は・・・は!」


ルーカスさんのその言葉の意味を理解した二人が、

ローブの人の両脇を抑え込み、そのまま部屋の外へと連れ出していく。


「ま、またれよ!このような・・・!」


喚き散らすローブの人を二人の人が連れ出し、扉を閉める。


しばしの静寂が訪れ、

はぁ、とため息を漏らす3人。

それが同時だったためか、思わずクスリと小さく笑う私とセツナ。


「あの者はともかく、教会のことはあまり悪く思わないで頂けると助かる。

なにせ、この世界の存亡の危機を1番理解しているのは教会なのでな」


「・・・」


世界が滅ぶ。

正直スケールが大きすぎてピンと来ない内容ではある。

あの不可思議な空間でも言われたことではあるけど、

未だにそれが具体的にどういうものなのか分からない以上、

イメージなんかできないし、危機感もわかない。


でも。


「教会の人は危機感を抱いているから余裕がないということですか」


「うむ・・・」


それなら妙に時間がないような態度をしていたのもうなずける。

頷けるだけでその気持ちを分かろう、許そうなんて気はこれっぽっちも起きないけど。


「さて、先ほどの話に戻るのじゃが、

2つほど約束して頂きたいことがある」


「約束・・・ですか?」


私とセツナが顔を見合わせて、

ルーカスさんに向き直る。


「うむ、まずひとつは、勇者であることを公言しないこと」


勇者を名乗るなということ。

まぁ、それは別に問題ないと思うけど。

セツナもうなずいている。


「そしてもう1つ。

災厄が発生した折には協力して頂きたい」


災厄。

この世界を滅ぼそうとする出来事。


「その、できる範囲でしたら・・・」


「ありがとう」


ルーカスさんが再び礼を行なう。


「では、もう1つ」


「え。2つではなかったんじゃないですか?」


「あぁいや。これは約束ではなく、

ただ、名前を隠しておくべきだと思いましてな」


「名前?」


セツナの名前のことだろうか。

隠すというのは・・・


「偽名を使えということですか?」


「うむ。

セツナ殿の名前は先ほどの神官長を通じ、

教会や王国内に伝わりましょう。

であれば、その名をそのまま使われた場合、

王国側で保護していない勇者という存在のために、

勇者としての立場を利用せんと動く者が居ないとも限りませぬ」


勇者だけど勇者パーティに加入せず、

騎士団にも守られない勇者であるセツナを、

どこぞの悪い人が私利私欲の為にさらいかねないってことかな?


「うーん、いきなり言われましても・・・」


「なら適当に決めちゃおうよ」


「適当って・・・うーん」


セツナが考え込み始める。

・・・少しして。


「うん、決めた!私の名前は」


「ストップ!ストップ、あとで聞くよ」


「え、うん」


「そうじゃな。ここでは誰が聞いているかわかりませんからな」


ルーカスさんも頷いている。


・・・まあ、名前を変えたところで、

セツナが勇者であることは筒抜けになりそうな気がしないでもないけど。


「では、召喚者が集まっている場所に案内しよう」


と、ルーカスさんが背を向けて歩き出す。

私とセツナがそれに続く。


「あの、どこに行くんですか?」


「うむ、そなたたち召喚者は、このままギルドの預かりとなる」


「ギルド?」


「そこらへんはそこで説明がなされるのでな。その時に聞いてほしい」


「あ、はい」


「それと・・・」


「?」


「もし、何か困りごとがあった場合、

出来る限りわしが微力ではあるが力になろう。

何かあれば騎士団詰所でわしの名を告げてくれればよい。

確かセーラと申したな」


「あ、はい」


「そなたの名でよばれた場合には分かるようにしておくのでな」


「えっと・・・ありがとうございます」


「ほっほ、まぁ、出来ることは限られておるが、何かあれば、の」


騎士団長であり、えーと、侯爵?様の便りって、かなり心強いのでは?

まぁ、これはセツナが勇者だから、なんだろうけど。

でもなんで私の名前で?セツナの名前じゃ・・・

あそっか。名前変えるならそうするわけにはいかないのか。


そうして歩いていくと、

ルーカスさんが扉の前で停止する。

扉の横では20代くらいの女性がぺこりとお辞儀をしている。


「ここじゃな。彼女たちが最後の召喚者じゃ」


「かしこまりました。お引き受けいたします。

お二人とも、どうぞ中へ」


扉をあけながら入るように促す女性。


「ではの。そなたたちにコルメイディアの加護があらんことを」


私とセツナが部屋に入り、

それを見送ったルーカスさんがため息交じりに立ち去っていく。


「あのようなまだ若い娘たちを、死地へ向かわせねばならんとは・・・」


無念のため息を何度も漏らした後、

さてとあの神官長をどう料理してやろうかと思考を切り替えた。



★★★



私やセツナが知るのはだいぶ後のことだけど、

あのローブの人は、勇者に教会への大きな不審を抱かせたという罪により

身分剥奪と国外追放に処されたらしい。

勇者こそこの世界の救い手。そのような存在に不審を抱かせる。

最悪の場合は敵にまわってもおかしくないという理由でとのこと。

自業自得だけど、勇者の立場というのは怖いものだと、

後で知った時は思ったものだった。

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