第十話 先行投資と指名依頼
パーティ登録を終え、
よし、それじゃあハンターズギルドへ向かおうと二人で大通りを歩いていると、
「もし」
声を掛けられる。
「?」
声のほうを向くと、
そこには先ほどモメにモメまくった貴族の女性が居た。
私もステラもそれに気づいて思わず身構えてしまったが・・・
「あの、先ほどはひどく取り乱してしまい・・・
誠に恥かしい限りでした。謝罪を申し上げますの」
と、とても申し訳なさそうな表情で告げてきた。
いきなりの態度豹変?に驚きつつも、
素直にその謝罪を受け取るべきかどうか迷っていると。
「勿論すぐ受け入れていただけるとは思っておりません。
あれほどの騒ぎを起こしてしまいましたので・・・」
本当に申し訳なさそうにしている。
・・・これは困った。
あの時の行動を知ってしまったため、正直オチカヅキにはなりたくはない。
だけどこの謝罪は本心からに見える。
元々悪い人ではないのかもしれないけど・・・
「その、もう過ぎたことですので・・・」
「えぇ、ですのでお詫びとして、
あなたがたにご指名依頼をさせて頂きたいのです」
「ご指名依頼??」
ご指名・・・指名依頼というのは、
その名の通り、受けるパーティや人を指定して依頼を出すこと。
有名なパーティや、名うてのハンターなどを指名して依頼を出され、
ギルド係員がその対象が現れた時に知らせるというものだ。
勿論無茶振りを依頼されたりすることもあるので、
断るかどうかは依頼を受けた側にゆだねられる。
断ったとしてもペナルティはない。
万一それが原因でなにかしらの問題になる場合は、
ギルド側は二度とその人からの依頼を受けなくなる。
もっとも、報酬が安すぎる、パーティランクと討伐対象が合わない、などの
明らかにパーティ側に不都合が発生しそうなものは依頼斡旋の受理すらされないようだけど。
「もちろん内容次第でお断りしていただいて構いません。
あくまでお詫びの印ですので・・・」
「いえ、流石にそこまでして頂くわけには・・・」
どうやら、簡単な依頼を破格な報酬で出してくださるようだけど・・・
いくらお詫びの印とはいえ、そこまでして頂くのは気が引ける。
「よいのです。
それにいずれ貴女がたに余裕が出来た時には頼みたいことがありますので、
その為の先行投資とでも思って頂ければ」
「頼みたいこと?」
「はい」
二人で顔を見合わせる。
私たちはまだ何が出来るかすら分かっていない。
分かっているのは、ステラが勇者の器アリ、ということだけ。
・・・それを見抜いて、或いはどこからか嗅ぎ付けて気付いてのこと?
「あなた、テイマーになりますわよね?」
「えっ?」
あれ。私?
「いえ、その子、あの後確認したのですが、
ゼスミアキャット、でしたかしら。確か魔獣と記憶しておりますので、
魔獣を手懐ける程の腕前をお持ちであればテイマーになると思いまして」
「テイマー・・・」
そういえば何度か言われてたような。
「違いますの?」
「いえ、まだこの世界きたばかりなので・・・」
「あら、召喚者でしたのね」
「え、あ、はい」
あ。マズい。これ言ってはいけない情報だったかな?
「そんなに戸惑わずとも大丈夫ですわ。
召喚者自体はそれほど珍しいものではありませんから」
「え。そうなんですか?」
「えぇ、我が国では災厄に備えての召喚が主ですが、
他国でも召喚自体はされておりますので。
もっとも、他国では技術革新や軍備増強などを狙った召喚が主のようですが」
そっか。
考えてみたらこの国だけが召喚を行なえるとは限らないんだよね。
「それに召喚者といえど、
勇者でもない限りはわたくしたちと全く変わりませんし」
「あ。そうなんですね」
「えぇ。それでお話を戻しますが、
あなたがテイマーになられる場合にお願いしたいことがございまして・・・」
「???」
「その・・・、そのゼスミアキャットちゃんを、
わたくしの為にテイムしていただきたいんですの」
「・・・あー」
あ。なるほど。
私が手懐けた後に譲ってほしいということ。
できるのかな?
「あの、確認してもいいですか?」
「えぇ、わたくしにわかる範囲でしたら」
「その、私がテイマーになって、手懐けたとしますよね」
「えぇ」
「その手懐けた子って、ほかの人にも懐いてくれるんでしょうか?」
「懐きますわよ?」
あ。懐くんだ。
「勿論相性や成り行きなどもあると思いますわ。
たとえば今あなたの元に居るゼスミアキャットちゃんは、
もうわたくしに懐くことはないでしょうし・・・」
ちょっと寂しそうに言葉を紡ぐ貴族女性さん。
自業自得だったとはいえ、ちょっと可哀想に思えてこないこともない。
先ほどから私の首元の襟口からそーっと顔を出してはひっこめているミュゼ。
苦手意識、持っちゃうよね・・・。私と揉めたのも見ていただろうし。
「ですので余裕ができたらで構いませんの」
「そう、ですねぇ・・・」
そもそもこの子が懐いてくれたのは、
色々とそういう状況になったからとしか言えない。
たまたま懐いてくれる状況だった。
だから本当に私がテイマーになれるかどうかも怪しい。
視線でステラに確認を取る。
笑顔でうなずいた。いいのかな。
「わかりました」
「ほ、本当ですの!」
「ただ、この子が懐いたのは偶然みたいなものなんです。
なので、テイマーになれるかどうかも分かりません」
「構いませんわ。その時はすっぱり諦めて、
また別のテイマー様が現れた時にお願い致しますから」
「あはは・・・、よほど気に入ったんですね」
「もちろんですわ!」
可愛いは正義!だね、ミュゼ。
その後、簡単な自己紹介をして、その場は別れた。
貴族女性の名前はヘルミーネ=バルグムールさん。
子爵の娘さんということらしい。
子爵ってどれくらいの身分なんだろう?あとで調べてみよう。
ちなみに、明日の朝までにでも指名依頼を出してくれるということだった。
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