第二話 自己紹介と声
はてどうしたものか。
何一つ思い出すことができない。
名前すら思い出せないのだから、自己紹介もできない。
「えーと・・・セツナちゃん、でいいのかな」
「あ、はい」
「ここに来る前のこと、思い出せる?」
「えーと・・・うん、覚えてるよ」
はい。私だけですね。記憶無いの。
どうしたものか。
「・・・何も、覚えてないの?」
「ウン・・・」
折角名前を教えてもらったのに、
これでは自分を紹介ができないではないか。
礼に欠けてしまう!
などとどこかズレたことを考えつつ、
なんでもいいからなにか、なにか思い出せないかと必死に頭をふる。
「えーと・・・」
「ぐぬぬぬぬ・・・」
「思い出せないなら、今お名前つけちゃおう?」
「・・・へ?」
「仮の名前。思い出したらそっちを名乗ればいいし、ね?」
「う、うーん、そだね・・・」
思い出せないものは仕方ないかぁ・・・と、
それならなんて名乗ろうか。頭をひねる。
名前。名前・・・
・・・ふと、目の前の少女の恰好に目が入る。
なんというか、かわいらしい服だなぁ、などと思って。
「ねね、それなんていう服なの?」
「え。これ?」
少女が自分自身の恰好を見る。
あれ。なんでこんな格好しているんだろうと首をかしげているが、
「これは制服。セーラー服だよ」
「セーラー服・・・セーラー・・・」
「?」
「うん、私の名前決めた!」
「え」
「私はセーラ!」
「ええ!?なんで!?」
「だって可愛い服だったから」
「えぇぇぇぇ・・・?そんな理由・・・??」
不評のようだった。
でも、私はセーラ。うん、なんかしっくりくる。
「というわけでよろしくね。セツナちゃん」
「えぇと、うん。セーラちゃんがそれでいいなら・・・」
こんな場所でよろしくも何もないとは思うけど、
少なくともセツナはいい子だ。間違いない。
気を許しても問題ない。と思う。
こんなよくわからない場所で、
自分自身の記憶すら不明な状態でたった一人でいるより、
味方になってくれそうな人がいるほうが何百倍もいい。
落ち着いたところで立ち上がり、改めて周囲を見渡す。
セツナもそれに続いて立ち上がる。
50人くらい・・・だろうか。
男女バラバラで、背格好もバラバラ。
髪の色も肌の色も、多分言葉ですらもバラバラ。
様々な人が居た。
「ね、セーラって言葉通じるね」
「言われてみれば。じゃあセツナって同郷の人なのかな?」
「そうかも?」
なんとなく気が合ったのか、
自然と呼び捨てになっていた。
そしてこれまた自然にお互いに身を寄せ合った。
周囲は全く知らない男女。
別にこっちを睨みつけてきたり、迫ってきたりはしていないが、
それでも知らない見たこともない他人と同じ部屋というのは、
どうにも緊張・・・というより恐怖しかない。
・・・あれ。
そういえば、ここって、部屋?
<静粛にせよ>
唐突に、部屋中に声が響く。
その声に下手に居た全員が、周囲を見渡し始める。
<説明をする。静かに聞け>
声が響く。
シン・・・と静かになる部屋。
<お前たちは、無作為に選ばれた>
選ばれた?何に?
<これよりお前たちは、召喚される>
召喚?何に?
<召喚された先でお前たちは、その世界を救う使命を負う>
・・・はて?なにそれ?
<それが成されねば、お前たちごと、世界は消失する>
その言葉に、周囲の何人かが・・・
多分反論?や罵声?を起こし、騒ぎ始める。
言葉が分からないので予測しかできないけど、
顔を真っ赤に染めて叫んでいるのだから多分そうだろう。
というか、語りかけてくる声の言葉はみんな理解しているんだね。
声じゃないのかな?なんだろう。テレパシー?
<お前たちは一度死んだ身>
・・・!
<その死んだ魂の幾つかを、様々な世界より無作為に集めた>
その言葉に、シン・・・と静かになる全員。
恐らく、自分が死んだということを、思い出したのだろう。
隣にいるセツナが今まさに青い顔をしているのだから。
なんとなく、セツナの手を取って、握った。
「あ・・・」
「・・・」
「ありがとう・・・」
しかし、無作為って言った?
無作為て。
さっきも言ってた気がするけど・・・それはともかく。
つまり適当に拾ってきたということだろうか。
え。それ大丈夫?
犯罪者の魂とかまで拾ってないよね?
しかもさまざまな世界って言った。
それって私の知らない世界からも引っ張ってきたということだろうか。
・・・いやまぁ、記憶ないので私の世界がそもそも分からないけど。
<どうしても否というなれば、召喚に応じぬよう意識すればいい>
あ。召喚に応じないこともできるのね。
<ただし。その場合はこの場に留まり、いずれ魂は薄れ、無に還る>
うん、そっちのほうがヤバいね。
ようするにまた死ぬようなもの・・・
いや、死んでも魂が残るなら、
それすらなくなるということなら完全な消滅だし、余計にヤバいかな?
あの世というものがあるのかどうか知らないけど、
そこにすら行けないって事だし。
周囲がまたざわめきだす。ただ、今度は罵声とか文句とかではなく、
動揺したような感じだけど。
<じきに召喚が行われる。心せよ。お前たちの行先は、
お前たちの住んでいたどこの世界よりも、危険の多い世界だ>
その言葉にまたもや沈黙。
危険の多い世界ってなに?それ人が住める世界?
まさかとは思うけど、どこぞのジャングルや
荒廃した大地にぽつんと送られたりしないよね?
数秒たったのち、
・・・フッ、と、数人の人が消えた。
その出来事に、ざわめきが始まる。
突然人が消える。けっこう恐怖だと思う。
「き、消えた・・・」
「消えた、ね?」
握った手に力が入っている。
怖いんだろうか?いや怖いに決まっている。
危険の多い世界で、その世界を救うために召喚される。
それがどれだけ危険に見舞われますよという宣言になるのか。
この声の主は理解して・・・理解してそう。
した上でわかりやすく要点だけ言ってくれたんだと思う。
そう思うことにした。
どうせ消えるか召喚されて危険な目に合うかなら、
消えるより召喚されることを望む。少なくとも私は。
「セツナは、どうする?」
「え・・・?」
「召喚に応じないでおく?」
「えっと・・・えぇと・・・」
次々に人が消えていく。
悲鳴を上げる人まで出始める。
恐怖に耐えきれなくなったのか、発狂でもしたのか。
「私はいくよ。消えるくらいならね」
「セーラ・・・」
「というわけだし、どうせだから」
握った手を、目の前まで持ち上げて。
「一緒にいこう!」
笑顔で言い切ったところで、意識が暗転した。
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