第八話 首輪と貴族
統括ギルドに到着すると、
召喚者達だろう。なにやらあっちこっちでもめているようだ。
「なんだなんだ?」
ギルドマスターさんが慌てて状況確認に移動する。
「どうしたのかな?」
「さぁ・・・?」
しばらくして、説明会?の時にいろいろ配っていた受付嬢さんが、
戻ってきたギルドマスターさんの頭を引っぱたいて、
召喚者たちに謝罪しながらどこかに案内を開始していた。
「あれ。皆してどこかにいくみたい?」
「どうしよう、ついていったほうがいいのかな」
「うーん・・・」
と入口でまごついていると、
ギルドマスターさんが引っぱたかれた頭をかきながらやってきた。
「くそ、アイツマジで叩きやがって・・・」
「あのー?」
「あぁ、さっき言ったろ、クラスの説明を忘れてたって」
「あ、はい」
「そのことでモメてたらしくてな。
今慌てて説明をさせる為に移動してもらったところだ」
「あ、じゃあ私たちも向かったほうがいいですか?」
「いや、お嬢ちゃんたちには説明はしたからな、
詳しくは資料を見てくれっていうのは同じだ。
なんせクラスの量はかなりある。 説明なんぞしてたら夜が明けちまう」
日が暮れる、ではなく夜が明けるというところが、
本当に相当な量あることを示していた。
「じゃあ、登録すればいいのかな・・・?」
「そうだな、登録済ませた後は、 各々のギルドを見て回るといい。
ついでに受付のほうに首輪のことも話しておく」
それじゃーな、と手を振って去っていくギルドマスターさん。
それでは、登録を開始しようかな?
まずはー・・・
「セーラ、こっちこっち」
ステラが手招きをする。
どうやらギルド証登録窓口を見つけたようだ。
「ありがと、ステラ」
新しい名前、偽名でセツナ・・・もとい、ステラを呼ぶ。
一瞬ぼーっとしたあと、急に顔を赤らめて目を伏せ、
「うっ」
「・・・う?」
何故か戸惑うように視線を迷わせている。
え。なんかマズいこと言った?
「どしたの・・・?なにか具合悪い?」
「う、ううん、そうじゃなくて・・・」
「??」
「その名前で呼ばれると、なんというか・・・その」
「・・・?」
「ゲームとかでもよく使う名前だったから、
なんか中二病にでもなった気分になって・・・その」
「???」
ちゅーにびょー?
「なんでもない、なんでもないの、うん」
顔を赤らめてぶんぶん手を振るステラ。
はて?
「セーラさんとステラさんですね」
「あ、はい。あれ。名乗りましたっけ?」
「先ほどすれ違いざまにギルドマスターから伝えられまして。
こちらを」
と、革?で出来た小さなベルトのようなもの・・・って、
あ。これ首輪かな?
「魔獣の首輪です。着けてあげてください」
そうだ、これを受け取るためにギルドマスターさんと一緒にきたんだ。
なんか騒ぎ起きててどっかいっちゃったけど。
あでも受付には言っておくって言ってたっけ。
それはともかく、
さっそく首輪をミュゼに付ける・・・前に、
まずこの首輪に私自信を登録する必要があるみたい。
受付さんの言うとおりに首輪に付いた小さなプレート部分を撫でる。
一瞬、何かを吸い取られたような感触を感じ、
それで大丈夫です、と受付さんに言われたので、
今度こそミュゼに首輪を付けさせようと服の中のミュゼに声かける。
「みゅー」
「!!」
ミュゼが襟口からぴょこっと顔を出して可愛らしく鳴く。
その姿と鳴き声に、首輪を渡してくれた受付の女性の表情が変わる。
目の前に現れた魔獣に怖が・・・ってないね。
むしろ破顔してる。めちゃくちゃ表情崩れてる。
うん、それ見せちゃいけない顔だと思う。
「ちょっと受付テーブルお借りしますね」
「ど、どうぞ!」
鼻息荒く許可をする受付の女性。
その様子に気付いたほかの受付や係員の人達がこちらを見る。
き、気にせずにミュゼに首輪を付けようと手を伸ばす。
「ミュゼ、首輪付けるけど、我慢できる?」
「みゅ」
大丈夫だよ、と頭を伸ばして首を差し出してくる。
本当に賢いなぁ。この子。
そんなこの子の頭を撫でて、
小さなサイズの首輪をミュゼに巻き付け、
ちょうどいいサイズで留め金を固定して止める。
2,3かいミュゼが首をぷるぷるっとふって、
ちょっと違和感を感じるのかてしてしと首輪を撫でている。
「大丈夫?苦しくない?」
「みゅ」
大丈夫だよ、と腕を駆けあがって肩まで移動し、
頬に体を摺り寄せてくる。
もこもこした感触とほのかな体温が気持ちいい。
「あはは、だからくすぐったいってばー」
「!!!!!」
そんな仕草に周囲の女性陣の目が釘付けになる。
えぇと・・・怖がって・・・ないよね?
うん、破顔してるもんね。
可愛いは正義だけど・・・なんか羨ましそうに見てくる目が凄く怖い。
「え、えぇと・・・その・・・」
釘付けになりながら受付の女性が躊躇いがちに訪ねてくる。
・・・うん、なんか分かった。
「・・・撫でてみます?」
「い、いいんですか!!!」
ものすごい勢いで食いついてきた!
怖い、怖いよその顔!
「みゅ、ミュゼ、いい?」
「みゅ、みゅう」
ミュゼもその迫力にドン引きしてるのだろうけど、
別に嫌というわけではないのだろう。
仕方ないなぁ、という感じに
また腕を伝って受付窓口の机の上に移動する。
「少しだけ、どうぞ」
「あ、ありがとうござます!!」
受付さんがおそる、おそるという感じにミュゼに手を伸ばし・・・
撫でた。
「うわ・・・うわぁ・・・ふわふわ・・・」
幸せそうにミュゼを撫でる受付さん。
「あ、あの、私もいいですか!」
横手からほかの女性も立候補してきた。
というかなんか列が出来上がってませんか?
え、なにこれこわい。
「みゅ、ミュゼが嫌がったら終了で」
わぁっと歓声が上がる。
え、なにこれこわい。
他の並んでいない男性係員(並んでいる人もいる)や、
何かの受付を待っている人らが唖然として見ている。
何人かが代わる代わる撫でている。
だんだんとミュゼが鬱陶しそうに、嫌そうにしはじめる。
そのうちの一人がミュゼをひょいっと手のひらにのせて、
頬ずりしだした。
え。そこまで許可していないんですけど。
「みゅ、みゅううう!」
ほら嫌がりだした。
「はい、終了です」
との合図の瞬間に、
頬ずりしていた女性からミュゼがぴょーんと飛び出し、
私の胸元に飛びついてくる。
「あー!ちょっと!」
堪能しきれていない女性から非難の声、
まだ撫でてないという並んでいた人たちからもブーイングが飛んでくる。
なお、それ以外の周囲の人たちは呆れきっている。
胸元に飛び込んできたミュゼが、
そのブーイングに驚いたのか、
いそいそと襟元から私の服の中に入って隠れてしまった。
「嫌がったら終了と言ったじゃないですか」
「でもまだ撫でてない!」
並んでいた人たちが抗議をはじめる。
でも言ったよね。嫌がったら終了って。
ミュゼは服の中で出ようとしない。
粘ったところで無理なのを察した何人かが作業などに戻るけど・・・
「堪能していないのよ!
はやく指示を出しなさいよ、テイマーでしょう!」
頬ずりしていた女性がまだ目の前でまくしたてていた。
「お断りします!
嫌がることをする貴女が悪いんです!」
「なんですって!?」
頬ずりしていた女性が喚きはじめる。
というかこの人はギルドの係員じゃないのかな?
ギルド証もなければ名札もないし。
「生意気な小娘ね!
わたくしにそんな口をきいてタダで済むとお思いなのかしら!?」
え。本気で誰?何?
「せ、セーラ・・・」
状況の悪さにステラがそばに来てくれた。
「さぁ早く出しなさい!
なんでしたらわたくしがその子を引き取って差し上げます!」
は?なんで?
「・・・何言ってるのこの人?」
「なんだか偉そうな感じだけど・・・」
「偉そう!?」
どうもその言葉が癪に障ったのか、
さらにヒートアップする女性。
え、本気で何?この人。
「衛兵を呼びなさい!いますぐに!!」
え。なんで衛兵沙汰に?
女性の言葉に仕方ない、という感じに、
出入り口近くにいた係員さんが外へと出ていく。
衛兵を呼びに行ったのだろう。
「あなた覚悟なさい!」
「えぇ・・・?」
流石にこの状況はちょっと意味が分からない。
理不尽にもほどがある。
「なんだ?まだなんか騒いでいるのか?」
騒ぎを聞きつけたのだろう、
私たちを案内してくれたギルドマスターさんが現れる。
どうやら、はじめにミュゼを撫でていた受付さんが
連れてきてくれたようだ。
申し訳なさそうに私にお辞儀している。
いえ、別にあなたはなにも悪くないと思うんですけど。
「ゼナム様ではありませんか!お聞きください!」
と、なんか私を指差しながら非難轟々。
終いには私のペットを盗みましたの、とまで。
いつのまにあなたの子になったんですかね。
そんな早口にまくしたてている女性の言葉を、
目をつぶりながら聞き続けるギルドマスターさん。
そうこうしていると、
入口のほうで呼ばれていたのであろう衛兵さんと思わしき、
黒い色の皮鎧・・・かな?を装備した兵士さんらしい人が3人現れた。
「通報があり来たのだが・・・」
「さぁ衛兵も来ましたわ。覚悟なさい!」
腕を組みながら胸を張り、
死刑宣告でもしているかのような表情でこちらを見る女性。
「あの、ギルドマスター殿、これはいったい?」
「あー、まぁ、ちょっとそのままで」
「は、はぁ」
ギルドマスターさんが、まず私に向き直る。
「一応、まぁ公平を喫するためと思って確認だけしておくな」
「はぁ」
「こちらの方のペット、盗んだか?」
「いえ?」
「よし、では次」
「ちょっと、わたくしが嘘をついているとでも・・・」
「あなたのペットとは、なんですか?」
「な、なにって・・・」
「名前は?種族は?そしてそれを証明するものは?」
「そ、それは・・・」
女性が確認されて言いよどむ。
あれ。知らないの?この子の種族。
「とにかくわたくしのペットなのです!
この小娘が服の中に隠してしまいましたの!
ひん剥いてでも取り戻させなさい!!」
「ちなみにこちらの嬢ちゃん・・・」
と小さな声で続けながら、
私たちには聞こえない小さな声で女性の耳元で何かを言っている。
それを聞き終えた途端、息を飲んだ後に何も言わず硬直する女性。
え。何を言ったの?
「・・・え、えぇと」
「今すぐ無かったことにして立ち去られることをお勧めしますよ?」
ギルドマスターさんが私を後ろ背に庇うような感じに立ち、
戸惑いどうしたものかと狼狽える女性に声かける。
「・・・わ、わかりましたわ」
そう呟いて、入口から出て行った。
のこされたのは呼び出された衛兵さん。
「えーと、我々はどうすれば?」
「あぁ、すまん、貴族の我儘に振り回されたと思ってくれ」
「そうですか。では何事もなかった、ということでよろしいですか?」
「あぁ、それでいい」
すまなかった、と衛兵さんたちの肩を叩くギルドマスターさん。
では見回りに戻ります、と衛兵さん達が出て行った。
なんかよくわからないうちに終わってしまった。
終わったと思ったらなんか急に力が抜けた私は、
その場でぺたりとしりもちをついていた。
「せ、セーラ!?」
慌ててステラがそんな私の前でしゃがみこむ。
「ごめんなさい、私が撫でさせて、なんて言ったせいで・・・」
見れば私の受付をしてくれていた人もおなじように
しゃがみ込んで、私の近くにいた。
「あはは、大丈夫、大丈夫です、うん」
と言いながらも足に力が入らず動けなかった。
そんな様子に気付いたのか、ミュゼが襟口からぴょこっと顔を出して、
私の顔・・・というか顎下で体を摺り寄せていた。
「ありがと、ミュゼも」
そんなミュゼを撫でる。
なんか大丈夫になってきた。かも?
ステラと受付さんに手を借りて立ち上がる。
ちょっとふらついたけど、うん、大丈夫そう。
「嬢ちゃんも変に巻き込まれるタイプなのか?
そういう星の元にでも生まれたか?」
「それは嫌過ぎるんですが・・・。
っていうかまるで私がトラブルメーカーみたいに言わないでください!?」
「それより、あの人は?
貴族って言ってたような気がするんですけど」
ステラが私に肩を貸しながらギルドマスターさんに確認する。
そういえば言ってたね。
「あぁ、まぁ爵位は下から数えたほうが早いんだが、
貴族は貴族だからな。何しにここに居たんだか」
「セーラは大丈夫ですか・・・?
そんな人に目を付けられてしまったみたいで・・・」
「あ?あぁ、大丈夫だ。
もう突っかかってくることはないだろ」
問題ないぞ、という具合に手を振るギルドマスターさん。
え、なんで大丈夫なの?
もしかしてさっきぼそっと何か言ってたのが関係してる?
「それはともかく、終わったのか?登録」
「あ。そうだ、ギルド証の登録がまだだった!」
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