第七話 ゼスミアキャットとテイマー

全員が立ち去り、

部屋には私とセツナ、そしてギルドマスターさんが残った。

ギルドマスターさんが部屋の扉を閉め、なにやら呟いた後、

扉と反対側へと移動して手招きをした。


「??」


よく分からないけど、移動する私たち。


「さて、先に確認をしたいんだが・・・」


と、先ほど渡された紙をひらひらしながら、

何故か小声になって話し始めるギルドマスターさん。


「おまえさんが、勇者の器か?」


と私を指差した。


「・・・えっ?」


「いやな、おっさんからの手紙が来てな。

 何かと面倒見てやれと綴られててな」


「お、おっさん?」


「あぁ、ルーデルハイツ候だ。騎士団長の」


おっさん呼ばわりしていいのかな・・・。

あ。意外とこのギルドマスターさんもそういう身分の人なのかも?


「えぇと、私じゃないです。こっちの・・・」


「ステラです」


「え?」


「私の名前。ステラにしたの」


「あ。偽名?」


「うん」


ルーカスさんに名前を偽るように言われていたから、

今からこの名前を名乗るんだろうけど・・・


「なんでステラ?」


「あ、うん、ネットで使用してたハンドルネームなんだけど・・・

何ていえばいいのかな・・・」


「二つ名みてーなものか?嬢ちゃん」


「あ、はい、そんな感じです」


「なるほど?」


よくわからないけど、

とにかくセツナは今後ステラを名乗るみたい。

なら今後は間違えないようにステラって呼ばなきゃね。


「ということは、嬢ちゃんはセーラだな?」


「あ、はい」


というかさっきステラが私をそう呼んでたんだけど。

聞き流してたかな?


「そういえばさっき呼んでたな」


あ。思い出した。


「ま、それはいい。

 そんなわけでおっさん・・・

 ルーデルハイツ候からよろしく頼むということなんでな、

 なんか困ったことがあればいつでもというわけにゃいかんが、頼ってくれ」


ここにきてルーカスさんだけではなく、

ギルドマスターさんも味方になってくれるようだ。

・・・勇者の、だけど。


「ま、そういうわけでそっちはそれでいい。

 それよりもそのゼスミアキャットだ」


「あ。はい」


胸元でじーっとしているこの子。

あ。もう人形のフリはしなくていいんだよ?


「みゅ?」


撫でてあげるとなぁに?とこっちを向く。

可愛すぎる。


「確かテイムできるとは聞いたことはあるが、

 してるやつを見たことがなくてな。

 かなり難易度の高い個体だったと思ったが・・・」


さっきも言ってたテイム。

あと難易度?はて。


「???」


「あぁ、テイムがわかんねーか」


「あ、はい」


「まぁ、細かい話はギルドで調べてもらうとしてだ、

 テイムってのは簡単に言えば動物や魔獣を従えることだ」


従える。

つまりペット?


「動物はともかく魔獣はテイム難易度が高いんだが・・・

 お前さん、よくそいつをテイムできたな。

 元の世界でもテイマーだったのか?」


「テイマー?」


「あぁ、テイムを生業にしているヤツだ。

 クラスとしてもしっかり存在しているぞ」


「・・・クラス?」


「あぁ、クラスだ。あれ。説明しなかったか?」


「してませんよ?」


「・・・アレ?」


ステラのほうを向いて確認してみる。

彼女も首を横に振っている。うん、してないよね。


「しまった・・・。説明する予定だったのにうっかりしてた」


「えぇ・・・?」


これ、ほかにも説明忘れていることないですよね・・・??


「ま、まぁ、統括ギルドのほうでも説明が入るだろうから、

 細かいことはあっちで聞いてもらうとしてだ、

 軽く説明しておくか」


なんか、軽く説明、が多すぎませんか?ギルドマスターさん。


「この世界には、手に職という意味での職業とは別に、

 クラスというものが存在していてな。

 こいつは条件さえ満たせば自分でなりたいものを選べる。

 そのうえでいつでも変更も可能なんだ」


「・・・???」


えーと・・・?


「そうだな、馴染みがないとよくわかんねーだろうけど、

 たとえばだ。

 おまえさんたちがファイターのクラスを選択したとしよう」


ファイター、つまり剣とかで戦う人のことかな。


「そうすると、ファイターとしての加護を受けられて、

 多少敏捷力が上がったり、力が通常より強くなったりする」


「加護、ですか」


「そうだ。メイジだったら魔力が底上げされたり、

 ヒーラーだったら回復魔法の回復量が増えたりだな」


「それは仕事の職業とは違うんですか?」


「あぁ、違う。

 これはまぁ、言ってみればこの世界での特徴だな。

 で、お前さんがテイマーのクラスになれば、

 動物や魔獣の手なずけの可能性が高まる・・・はずだ」


へぇ・・・面白そう。そのクラスっていうの。


「ま、クラスの種類はかなりの量があるからな。

 詳しく知りたいなら統括ギルドの資料集を見てくれ」


これはあとでしっかり確認とらなきゃね。


「で、話をもどそう。

 そのゼスミアキャットなんだが、

 テイムした、ということでいいよな?

 殺してそこに飾っているというわけではなく」


「こ、殺してなんていませんよ!!」


あわてて全力で否定する。

そして、左手を伸ばして手の平を上に向けて広げる。

その意図を察したこの子が、襟元からぴょこんと飛び出し、

肩から腕をつたって、掌まで移動し、


「みゅ」


掌に顔を摺り寄せた。


「あはは、くすぐったいってば」


「・・・驚いたな。完全に意思疎通出来てるじゃねーか」


ギルドマスターさんがこの子を撫でようと手を伸ばす。

特に嫌がる素振りもせず、この子はそれを受け入れた。


「で、名前は?」


「え?」


「名前」


・・・


「あっ」


「つけてないね、そういえば」


「おいおい・・・つけてやれよ。可哀想だろ」


「あう」


「みゅ?」


な、名前・・・。


えーと、ゼスミアキャットだからゼスちゃん?

違うなぁ・・・。

もっとかわいい感じに・・・うーん。


「ミュゼちゃん」


「えっ」


「みゅーって鳴くし、ゼスミアキャットなんだよね?

 だから、ミュゼちゃんはどうかな?」


「ミュゼ、ミュゼかぁ・・・。

 どうかな?」


「みゅー」


嬉しそうに鳴きだす。


「じゃ、君はミュゼ。よろしくね」


ミュゼが腕を伝って肩まで走ってきて、

私の頬に身を摺り寄せる。


「だからくすぐったいってばー」


サイズてきにけっこう大きいはずなのに重さをあまり感じない。

そういう種族なのだろうか。ゼスミアキャットというのは。


「成獣になると1メートルくらいにはなるが、

 そいつはいいとこ20センチというところか。

 まだ幼獣だろうが、よくそこまで手なずけたなぁ」


「1メートル!?け、けっこう大きくなるんですね・・・」


「セントバーナードくらいになるのかな。この子」


「せんとばーなーど?」


「あ、ううん、こっちの話」


「まぁ、こいつは別名風猫とも呼ばれてるからな、

 軽いだろ?」


「あ、はい。軽いです。全然重さ感じなくて」


風猫。

風のように重さを感じなくて、素早いからかな?


「ま、そこまで懐いているなら問題ないな。

 問題ないが、魔獣の首輪はしないとな」


「魔獣の首輪?」


「テイムされた魔獣には付けることが義務付けされている。

 そいつを付けていないと、野良魔獣が町に迷い込んだ、

 或いは持ち込んだと勘違いされて、

 その場で衛兵やハンターに切り殺されても文句はいえねぇ」


「え・・・えええ!?」


思わずミュゼをかばうように両手で包む。


「みゅ?」


「だからその首輪を付けてやるってこった。

 本来購入するといい値段がするんだが・・・金ねーだろ?」


「えぇと・・・」


お金は先ほど頂いた500と800、1300ゼニドしかない。


「わ、わたしのも使えば足りないかな?」


「だ、ダメだよセ・・・ステラ。

 そんなことしたら今後の活動資金がなくなっちゃうよ!」


「ちなみに安いのでも4000ゼニドはする」


あ、はい。全然足りません。


「首輪ひとつでなんでそんなにするんですか・・・?」


「当然だろ、いくら手なずけたからといっても、元は魔獣だ。

 魔獣ってのは魔物同様に本来は人を無条件に襲う存在だ。

 万一テイマーのテイム状態を失って、

 そこらの人に襲い掛からないとも限らねぇ。

 そうなった場合に、魔獣の首輪がそいつの動きを制限するんだ」


「制限・・・」


その首輪を付けると、ミュゼに制限がかかる・・・?


「あぁ、心配しなくていい、

 あくまでテイム状態が失われた場合だ。

 そうでない限りはただの首輪だからな」


なるほど。私に何かあったり、

急に野生に戻って暴れだしても大丈夫なように、ということかな。


「だからいったんギルドのほうで

 その首輪を貸し出してやるってことだ」


「いいんですか?」


「良いも悪いも、そうしねーと連れ歩けねーだろ」


「そうなんですけど・・・」


そこまでお世話になっていいのだろうか。


「ま、これもおっさんから頼まれた内容だとでも

 思っておいてくれ」


る、ルーカスさんだね、うん。


「わかりました。その、ありがとうございます」


「きにすんな。

 ま、今後もなにかあれば遠慮なく頼れ」


「はい」


こうして、ギルドマスターさんからの話は終わった。

話が終わってすぐに、何かを呟き始める。


「あの、先ほどもドア前でしてましたよね、それ」


「ん、ああ、

 万一にも聞き耳たてられても聞こえないように

 遮音の魔法を使ったんだよ」


「遮音・・・、そんな事も出来るんですか」


「まーな。

 さて、俺もいったん統括ギルドにいかにゃーならん、

 一緒に行くか?道わかんねーだろ」


「あ、はい、ぜひお願いします」


「いいんですか・・・?」


「かまやしねーよ。

 それに嬢ちゃん二人だけで万一変な所に迷い込まれたら

 最悪身の危険的な意味で何か起きかねねーしな」


確かに、悪漢なんかに襲われたら

どうしようもない自信がある。


「それじゃあ、お願いします」


私たち3人は、

王宮を出て、ギルドマスターさんと共に

統括ギルドへと向かうことになった。

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