第六話 ギルドとお金
部屋に入ると、そこには30名程度の人がいた。
これが全員召喚者であるならば、はじめは50人程度だったのが
随分減ってしまった、と思う。
恐らくあの化け物にやられてしまったのだろうか。
「みゅふぅ・・・」
あの一緒にくることになった子が、
私の服のえりから顔を出す。
ちょっとねつっぽい。
ずっと服の中に居たから、蒸されちゃったかな・・・?
「ご、ごめんね、暑かったよね」
「みゅふう・・・」
ぐてーっとした感じで襟元にぶら下がる。
もう見られても大丈夫だろうか・・・?
席は後ろなので誰も気づいていないようだけど。
「そうしてるとお人形を胸元に差し込んでるみたいだね」
「あ。それも手かな」
「えっ」
よし、君は極力そのままでいてね。
お人形さんになるの。OK?
「みゅ」
思いが通じたのか、そのままぴくりとも動かなくなる。
「・・・えぇ・・・?冗談だったのに・・・」
訝しげな眼で私とこの子を見るセツナ。
うん、ちょっと無理あるかなと思わないでもない。
「よーし集まったな!」
前方でよく通るちょっと乱暴そうな声が響く。
そこには筋骨隆々のいかにも戦士!という感じの男性が立っている。
ただし服装はピシっとしており、
立ち振る舞いさえちゃんとしていたらどこかの執事風にも見えないことはない。
うん、ごめんなさい。服以外はとても見えません。
「まず自己紹介をしておこう。
俺は統括ギルドのギルドマスターを務めている者だ」
ギルド。さっきルーカスさんが話題に出していたね。
私たちを預かってくれるというか面倒見てくれることになっているんだったかな?
「とまぁ、ギルドの話をする前にだ。
まずこの国の簡単なルールを説明しておくぞ!」
と、話し始めたのはこの国で禁じられていることだった。
ようするに犯罪行為にあたるもの。
殺しや盗みなどは当然ながら犯罪。
他にも細かい内容があるようだけど、
私たちの良心がとがめるような内容を行なわなければ大丈夫、
詳しくはそのうち自分で確認しろということだった。
適当すぎません?
「続けてギルドについてだ。
まず統括ギルドには、数多くのギルドを統括しているが、
その中でも1番かかわりになるだろう大きな5つのギルドがある。
ハンターズギルド、冒険者ギルド、
魔法師ギルド、職人ギルド、商人ギルドだ」
統括ギルドというのは、国内に存在する全ギルドを管理するギルドのことで、
ギルド内で問題や不正が発生した場合にこの統括ギルドが解決に乗り出すらしい。
で、今しゃべっているこの人が、そのギルドの長。ギルドマスターということ・・・かな?
「お前たちはまず7日間の寝床として、
ハンターズギルドの詰所を利用できるように手配している。
ただ、男女にしか分かれていないただの広い部屋に
ベッドが何十個と設置されただけの寝所だ。
それが嫌なら自分で金を出して宿に泊まることだ」
まぁ、いきなり個室とかは無理そうなのは仕方ない。
仕方ないけど・・・
7日間・・・かぁ。
「7日を過ぎたらあとは自分たちでなんとかすることだ。
それまでに稼ぐ手段、食う手段を確保しろ」
これに多少のざわめきが発生する。
たった七日間でどうにかなるものなのかと。
「でだ。その稼ぐ手段だが」
その言葉にざわめきが止まる。
と、受付?秘書?っぽい若い女性・・・といっても年上だと思うけど。に、
なんか数字の書かれた紙を手渡された。31?
セツナも渡されたみたい。32?
「お前たちが何をできるのかはしらんが、
魔物を討伐したり、薬草などの素材採集したり、
モノづくりをしたり商売したり、
そういうのを『依頼』として、
各々のギルドで張り出している」
魔物・・・あのとき遭遇した化け物かな。
あれを討伐?いや無理無理無理無理。
だとしたら素材採集、モノづくり、商売?
「それらを受けてこなせば金が稼げる。簡単だろう?
で、これよりお前たち全員に、ギルド証を与える。
こいつはお前たちの身分を示すものにもなる。
失くすんじゃねーぞ」
紙を渡してきた女性が、
今度はバッジのようなものを渡してきた。
あと、ひとかかえある袋も渡された。これはいったい?
「今渡したバッジがギルド証だ。
そのままでは使えんから、
必ずまずは統括ギルドの受付で登録をする事だ。
さっきも言ったが身分証となる。
失くせばそれで身分を失うと思え。
再発行は出来ない。
新たに入手自体は可能だが・・・かなりの金がかかるからな。
それと、一緒に渡した袋には、
服一式と、侯爵様の計らいで金が入っている」
侯爵、ルーカスさんだよね。
よかった、無一文で放り出されたりはしないみたい。
服は・・・ズボンとシャツかな?
あと替えのフード・マント付きの裾の短めなローブが入ってた。
「中に皮袋があってだ、その中に500ゼニド入っている。
と言われてどんだけの価値かわからねーか。えーとだな・・・」
男性が考え込んでいると、
先ほどギルド証と袋を配り終えて、
横に立った女性が代わりに答える。
「一般的な食事代がだいたい50ゼニドです」
「お、おお、そういうこった!」
なるほど、10回分の食事代というところかな?
隣でセツナが日本円の10倍くらいかな?
とかよくわからないことを言っている。
「依頼に関してとギルドに関しての詳しい内容は、
各々のギルドで確認しろ。
で、簡単に説明だけしておく」
説明内容はざっとこんな感じだった。
ハンターズギルドは魔物や魔獣、害獣などの討伐が主で、
そういう関係の依頼が多いとのこと。
盗賊や山賊などの野盗討伐の依頼が出ることもあるらしい。
冒険者ギルドは主に未知の探索エリアの調査やダンジョン探索が主で、
その他にも材料の採取などの依頼が多く出されるとのこと。
なので相応の専門知識をかなり要求されるらしい。
魔法師ギルドはその名の通り魔法に関する所で、
ここで依頼が出されることはあまりないようだ。
魔法を習得したい場合はここにいけばいいのかな?
職人ギルドでは武器や防具だけではなく、家具や道具など、
とにかくあらゆる作成を求められるため、
手先が器用な人や、そういう経験があると重宝されるらしい。
もちろん、作成物の納品依頼などもあるとのこと。
最後の商人ギルドは、売買をするための窓口というか、斡旋所というか。
主に行商人が利用するらしいけど、
ギルドマスターもよく分かっていないのか、かなり不安になる説明だった。
気が向いたら寄ってみよう。商売とかできないけど。
「以上だ。さて、質問はあるか?」
この言葉の後、ふと疑問に思ったことがあったので手を挙げた。
何度かほかの召喚者が質問をし、それをギルドマスターや、
横の女性が答える。
それを何度か繰り返した後、私が指された。
「全然関係ないことなんですけど・・・」
「おう、言ってみろ」
「なんで言葉、通じてるんでしょうか?」
その言葉に全員が私を見た。
え、怖。
そして少しして、確かに通じてる、と全員が口々に話し出す。
「おう静かにしろ、静かに。
嬢ちゃん、どういう意味だ?
言葉が通じなきゃこうやって会話できねーだろ」
「いえ、その。
召喚される前まではみなさんと言葉通じなかったので・・・」
会話したわけではないが、
あのとき口々に発していた言葉は
全く分からない言語ばかりだった。
でも今は全員が私の言葉も、
ギルドマスターさんの言葉も理解している。
「なるほどな」
うんうんと頷き、
ギルドマスターさんが改めて質問に・・・
「知らん」
応えた。答えではなく。応えた。
「えぇ・・・?」
「俺が知るか。たぶん召喚時になんやかんやあったんだろ」
なんやかんやってなに。
「なんやかんやはなんやかんやだ!」
ギルドマスターさん、心の声に答えないで。
それはともかく、言葉が通じるなら・・・
「あの、そしたらなんでもいいので文字、文字を見せてください!」
「文字、ねぇ。ちょっと待ってろ」
と、背後にある壁に何か文字を書き始める。
ってそれ書いて大丈夫?落書きにならない?
「読めるか?」
書き終えたギルドマスターさんが文字をバンっと叩く。
うん、読める。
「ようこそ、グランデール王国へ?」
「読めるな。じゃあそういうこった」
読めた。何故かわからないけど。読めた。
横でセツナが若干戸惑った表情をしている。
けど、とりあえず質問は以上なので席に着いた。
「どうしたの?セツナ」
「う、うん・・・
私の知ってる文字じゃないのに読めるから・・・。
それと・・・」
「それと?」
「私の知ってるはずの文字で、
名前の書き方すら分からないの・・・」
つまり、もともと知っていたはずの文字が全く分からなくなって戸惑っているらしい。
不思議だけど、そういうことになった、と納得するしかない。
「さて、質問はないな。よし、最後に。
今回お前たちが居た人工ダンジョンで遭遇した化け物がいるな。
その化け物を討伐した奴には、討伐報酬が出ている」
討伐報酬・・・あ。ハンターズギルドの依頼のようなものかな?
「さっき配った番号で呼ばれたヤツは受け取りに来い。
まず6番・・・」
ギルドマスターさんが番号を呼んでいく。
7人ほど呼ばれ、そして。
「最後に31番」
「え」
「31番、ってなんだ嬢ちゃんか。
ほら、お前も討伐したんだろ。報酬だ」
と手招きされてあわてて向かう。
「驚いたな。そんなナリでコボルト倒すのか。
ほら、コボルト討伐報酬の800ゼニドだ」
と、けっこうずっしりしたお金を渡される。
渡されたときに、私の胸元に目を向けるギルドマスターさん。
む。どこみてるんですかね・・・?
いや、正直サイズに自信はないです。
セツナより小さいし。たぶん。
などと思いながら視線に思わず胸元を隠すように腕でガードする。
柔らかく暖かいものが腕に当たる。
「にゅ・・・」
「・・・あ」
そういえば、君が居たんだった。
そりゃ、見るよね、うん。
ごめんなさいギルドマスターさんエッチな人扱いして。
「嬢ちゃん、そいつは?」
「あー・・・」
「人形・・・じゃねぇな。
ゼスミアキャット、魔獣じゃねぇか。
なんだ、テイムしたのか?」
「て、テイム?」
理解が追い付かず皮袋を受け取った格好のまま固まる私。
ギルドマスターさんが小声で続ける。
「・・・ふむ、このあとすぐ解散だが、ちょっと残れるか?」
「え、あ、はい?」
「よし。これにて話は終了だ!
ここにいる受付嬢のあとに続いて外に出てくれ。
はぐれて迷子になってもしらんからな。
ここは王城だ、下手な所に迷い込んで
機密保持の為に処刑なんて可能性もあるからな!」
それを聞いた全員があわてて受付嬢・・・
さきほどまで紙とかいろいろ配っていた女性のあたりに集まる。
女性が軽くギルドマスターさんを睨んだ後、こちらです、と案内を開始した。
そして、
「ん?そっちの嬢ちゃんはどうした?いかんのか?」
「え、えっと・・・セーラが残ってるから・・・」
「あぁ、知り合いか。じゃあこっちに来てくれ」
とセツナのことも手招きしたとき、
立ち去っていく召喚者の波をかき分けて、
騎士っぽい出で立ちの人がギルドマスターに
なにやら紙を手渡して去って行った。
「・・・ふむ」
「・・・??」
なにやらギルドマスターさんが思案顔になってしまった。
何が書いてあったのだろう?
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