第四話 試練と勇者

「・・・えーと、どうしよ?」


「どうしよって・・・」


目の前には階段。

背後には今まで進んでいた道。

他には道はない。


「行くしかないよね?」


「そ、うだね・・・」


ぎゅっと握りしめてくるセツナ。

あの。そろそろ指の感覚がなくなりそうなんだけど・・・。


意を決して階段に足を延ばす。

そして、1段、また1段と登っていく。


「いまさらなんだけど・・・」


「?」


「ここって、何なのかな」


ここ。

石床と石壁の広めの空間。

そして階段も石。

じめっとした感じのするこの空間が一体何なのか。

何かの建築物なのは確かだろう。

しかし、何の?


「まっすぐ進む石造りの通路があるだけ。

 はっきり言って用途不明だよねコレ」


変な化け物が居た。

この子が居た。

そして、襲われて犠牲となった人が居た。

逆を言えばそれだけだ。

それ以外になにもない。


「棍棒・・・だっけ」


「うん?」


「コレが置いてあるってことは、

 ここは人の住処や施設、でいいんだよね」


「??」


「だって、棍棒なんて人工物、

 作った人や設置した人が居るはずだよ?」


「あー」


セツナの言うとおりだ。

なら、やはり誰かが私たちをあそこに放逐した?

そして棍棒が人数分あったということは。


「あの化け物を倒せるかどうか確かめた・・・?」


そこでふと思う。

あの犠牲となった人は武器らしいものは持っていなかったか。

死体の状況をよく思い出・・・


「・・・う。あの犠牲者さん思い出したら気持ち悪くなってきた」


「お、思い出さないで!?というか思い出させないで!?」


ともかく進もう。

こんなよく分からない所からはとっとと出てしまうほうがいい。



階段を上りきる頃には、少し風景が変化した。

無骨な石造りの階段や壁は、

磨かれた綺麗な石造りの壁や階段に変化していた。

そして登り切った正面には大きな扉。

こちらは鉄製・・・かな?の扉だった。


「・・・これがゲームだったら、ボスの部屋なんだろうなぁ」


「ゲーム?」


「あ、ううん、こっちの話」


さて、このまま無計画にいっていいものかどうか。


「ね、君」


「みゅ?」


「いったん服の中に隠れてもらっていい?」


「みゅっ」


こくりと頷くと、首元からローブの中に入っていく。

私が服の上からここにいてね、とおなかをぽんぽん叩く。

おなかのあたりで陣取ってくれる。


「どうしてその子を隠すの?」


「さっきセツナがボス部屋って言ってたじゃない?

 いつまでも首じゃ早く動いたときに振り落としそうで」


「あ。それで服の中なんだね」


「そういうこと。まぁ・・・」


もし、ここがボス部屋とかいうのであれば、

間違いなく先ほどの化け物より強いのが出るだろう。

そうなれば、逃げるしかない。

その時に振り落としてしまわないか不安だった。


「じゃ、いくよ・・・」


「うん」


私は、扉に手をかけた。




中はちょっとした広さの部屋だった。

所々に窓もあり、日の光が入っている。

あぁ、なんか日の光って安心する。


そして、部屋の中央には二人の男性が立っていた。

一人は甲冑に身を包み、いかつい顔をしている60代くらいの男性。

もう一人はゆったりとしたローブに身を包み、

その手に水晶玉のようなものを持った、これまた60代くらいの男性。

どちらも共通しているのは、妙に高い身分な感じの服装だということ。


「えーと・・・。ボス?」


「ち、違うんじゃないかな・・・?」


私たちがどうしたものかとまごついていると、


「どうした、召喚者よ。こちらに来るといい」


そう呼びかけられた。


二人で顔を見合わせた後、

恐る恐る声をかけてきた二人へと歩み寄る。


「ふむ、無事にここまで来れたようだな」


「ひとまずの試練はクリアといったところか」


・・・試練?


「さて、お前たちはこれより勇者としての器があるかどうかを確認させてもらう」


勇者の器?


「この水晶玉に手をかざすのだ」


ローブの男性が、両手に持っていた水晶をこちらへと向けた。


「・・・」


「・・・」


私もセツナも理解が追い付かず、

というか完全に置いてきぼり状態で、

半ば警戒した目つきでその水晶と男性二人を見やる。


「なにをぼさっとしているのだ。早くかざさぬか」


「・・・」


「・・・」


多少イラつきながらも水晶をずいっとさらにこちらに向けるローブの男性。

そうされることでじりっと後ろに下がる私たち。


「警戒しておるか・・・」


「警戒?何を恐れるというのだ?」


男性二人が言い合う。

甲冑の男性は理解してくれているようだけど、

ローブの男性は全く理解していない。


「け、警戒するにきまってるでしょ!!」


「む・・・」


「何を警戒するというのだ。いいからとっととその手をかざさぬか!」


「それをしたら私たちが死んじゃうとか、何か良くないことが起きるとか!なにかあるんじゃないの!?」


「何を馬鹿な・・・」


ため息交じりにあきれた表情をするローブの男性。

その態度に、私の今までの色々なものが、爆発してしまった。


「何よそのため息!!

変な場所で目覚めて!

召喚されるとか言われて!

そしたらここの下で目覚めて!

何が起きたのか分からないまま!

突然悲鳴が聞こえて!

変な化け物が襲い掛かってきて!

なんとか逃げて!

そしたら悲鳴の犠牲者が死んでて!!

血が出てて!!

やっとの思いでここまできたら何!?

試練!?勇者の器!?

わけわかんないよ!ちゃんと説明しなさいよ!!!」


肩で息をしながら男性二人を睨み付ける。

隣でぎゅっと私の腕にしがみ付いてくるセツナ。

うん、大丈夫。セツナは味方だから。

と、その手を空いた片手で握り返した。


「そうじゃな。礼儀として説明すべきじゃな」


「騎士団長殿。後程どうせ説明がなされるのです。

ここはあくまで勇者の器を確認するだけ。

余計な時間をとられたくは」


「その慇懃無礼な態度で反感を持たれておるのが分からぬか!」


甲冑の男性の一喝に、

ローブの男性が水晶を落としそうなほどビクっとし、1歩下がる。


「・・・すまぬな。いま説明しよう」


甲冑の男性が前に出る。


「まず自己紹介をすべきじゃな。

わしはグランデール王国の騎士団の団長を務めておる、

ルーカス=リヒト=ルーデルハイツじゃ」


そういって、おなかに片手を添えて一礼をする。

騎士の礼?

あわてて私も同じように見よう見真似の礼をする。

セツナも続いた。


「真似などなさらずともよい。

召喚者たちには各々礼の仕方があることは存じているのでな」


・・・この人は話が通じそう。

セツナと目で頷き合い、向き直る。


「私はセーラ」


「私は須藤刹那です」


「うむ。まずそなたたちは、

自分自身の状況をどこまで把握できておるか確認してもよいかな?」


「えっと・・・」


この世界を救うために召喚された、ということくらいしか分かっていないため、そのことだけ話した。

私たちが1度死んだことや、どこからやってきた、などは不要な情報だろうから。


「うむ」


静かに頷く。


「そなたたちは、我が国が召喚した。そして・・・」


・・・要約すると、こうだった。

この世界はだいたい80年の周期で、

災厄と呼ばれるものが発生する。

それに対抗、対処するべく召喚の義を行なうらしい。

そして、召喚されたものたちのなかに、勇者の器を持つ者がいるという。

勇者の器というのは、そのままその意味。勇者となれる者たちのこと。

勇者となれる者たちは、とても強い力を持つことができ、

その力こそが災厄に対抗できる最大の力だそうだ。

ただ、はじめから強いわけではなく、

鍛えて初めてそうなれるらしい。地道な努力、大事。

で、その勇者の器があるかどうかを、その水晶で調べることができるそうで。


「・・・というわけじゃ。理解できたか?」


「ようするに当て馬をそちらの勝手な都合で呼び出して、

 さらに勝手な都合で勇者に仕立ててぶつけると」


「せ、セーラ!」


「だってとんでもなく身勝手なこと言ってるんだよ?」


自分たちの世界の危機を、

こちらの都合などお構いなしに呼び出して、

対処させようとしているのだから、身勝手も甚だしい。


「言われた通りじゃ」


「で、それならなんであんな危険な所に呼び出したの?」


「う、うむ、それは・・・」


過去にも当然同じことは幾度となく行われていた。

呼び出したはいいものの、

何の役にも立たない、動こうともしない者も何人か混じるらしく、

いつしかこの人工ダンジョンに呼び出し、

無事にクリア出来た者を集めて勇者の器を確認するようになったとか。

ちなみに、人工ダンジョンというのは、そのままその名の通り。

人工的にダンジョンを作り、そこに魔物などを放逐するというもの。

平時は主に兵士たちの訓練場として使用されるそうだ。


ようするに使えそうな召喚者だけを残すために

ふるいにかけたということだ。


「勝手すぎる!!」


「本当です!!ふざけてます!!」


流石にセツナも同意見のようで安心した。


「それが昔からの行い故な。

 言われてみれば確かに勝手すぎるな・・・」


「本当に勝手すぎる・・・」


悲痛な表情で言う甲冑の男性・・・もとい、ルーカスさん。

彼が悪いわけではないのはわかる。

でも、そんなシステムを作り上げたこの世界が、

すさまじく身勝手すぎて頭にくる。


「さてもういい加減いいだろう。とっとと水晶にふれてくれないか」


ローブの男性がいい加減にしろという風に水晶を突き出してくる。

正直、触れるふりして水晶を地面にたたきつけてやりたい。

でも、それをして困るのはこの世界、そして私自身。

まぁ・・・予備くらいいくらでもあると思うけど。


はぁ、とため息をつきながら、水晶に触れた。


水晶に触れると、

淡い光が発生する・・・が、それだけだった。


「資格なし」


そう言い捨てて私の手を払いのける。

この人なんなの?高圧的にもほどがある。

・・・まぁ、もう会うこともないだろうけど。


次に、セツナが水晶に触れる。

途端


「うわ・・・」


まばゆい光が周囲を照らす。


「お、おお、間違いない、5人目の勇者の器だ」


ローブの男が頷きながら水晶をしまう。


「勇者様、あなたには勇者たる器がございました。

 さぁ、こちらにおいでください」


突然態度を豹変させたローブの男が、

手を差し伸べてセツナを誘導し始める。



「え・・・え?」


私の横に素早く移動して腕をつかんで逃げ腰になる。

あの、なんだかそこが定位置になってない?セツナ。


「なにをなさっているのです。さぁ、まいりましょう、勇者様」


「な、なんでですか!どこに連れて行くんですか!」


「あなたは勇者の器ありでした。

 ですので、これより勇者任命の義を行ない、

 ほかの勇者の方々とパーティを組んでいただきます」


そういえば5人目の勇者、って言ってたね。


「な、ならセーラも・・・」


「えっ?」


「そちらの者は勇者の資格なし。ただの役立たずです」


「は?」


器なしと知るや否や役立たずの称号を頂きました。

まさかほかの転生者も器なしは同じ扱い?

というかまさか、不要と断じて処刑とか処分とかされたり・・・


いや流石にそこまではしない・・・よね?


「神官長どの。いささか口が過ぎるのではないか?」


「我らに必要なのは勇者のみ。

他の勇者ですらない召喚者などどうでもよいのです。

さぁ、勇者様。こちらへ」


と、こちらに近づき手を伸ばしてくる。

とっさに私はセツナとローブの男性の間に入る。


「・・・なんのつもりだ?」


「あなたは信用できない」


「なにを」


「私もあなたは信じられません。一緒になど絶対に嫌です」


「な、何を仰います。私はれっきとした教会の神官長を務めている者です」


そうなのか?とルーカスさんのほうに目を向ける。

コクリと頷いている。


「つまり教会はそういう人のいる場所、と」


「とてもよく理解できました」


二人で呟きながら頷く。

教会は決して信じてはならない、と。


「さぁ、時間をかけてはほかの勇者様にもうしわけないのです。

来て頂きます」


遂に私を押しのけてでも連れて行こうと動くローブの男性。

しかし、セツナが私の横に立ち・・・


「さぁ」


「お断りします」


ローブの人の手を払い除けて、

ハッキリとそう言い捨てた。

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