なにか足らなくないですか?
そんな感じに別れたのだが、壱花は斑目と、わりとすぐに再会した。
昼にみんなとランチを食べに行ったカフェにいたからだ。
友人らしき男と窓際の席に座っていた斑目が手を上げ、笑いかけてくる。
「おう、愛人。
昼飯か」
ひーっ。
「誰、今のイケメンっ!」
「愛人ってなにっ?」
と一緒に来た友人たちがさざめく。
壱花は慌てて、ぺこりと頭を下げ、できるだけ遠い席に移動しながら、みんなに弁解した。
「いやいやいや、あいちゃんって言ったのよ」
「なんで、あんたがあいちゃんよ、風花壱花」
と同期の
「……昔、あーいあい、とかいうサルに似てたから」
とゆるっとしたことを言って、爆笑されて終わった。
「もう許しませんっ、
と壱花は夜、あやかし駄菓子屋でキレる。
「私の評判を地に落としてっ」
「愛人説はともかく。
お前が、あいあいなおサルになったのはお前のせいだがな」
といっしょにカウンターに並ぶ倫太郎が突っ込みを入れ、ライオンにタピオカをやってみている冨樫が、
「評判なら、もともと地に落ちてると思うが……」
と更に突っ込む。
だが、社内でのあだ名が、あいちゃんや、あいあいを飛び越え、おサルになってしまいそうな壱花は聞いていない。
「社長も脅されてることですし、こうなったら、
……殺るしかないですかね」
「待て」
「あやかし様たちに殺ってもらったら、完全犯罪ですよね」
「待て待て」
と倫太郎が止める。
「まあ、落ち着いて、駄菓子でも食え」
と倫太郎は、今、子狸たちにもらった細長いビスケットをそのまま壱花の口に突っ込む。
甘いビスケットの周りに塩がまぶしてあるやつだ。
「こっ、これはいけませんっ。
これは、悪魔の味ですよっ。
私、これ系のお菓子は止まらなくなるんですっ。
だって、甘いものを食べたら、辛いもの欲しくなりますけど。
これは、これ一本ですべてを成し遂げてるじゃないですかっ。
完全体のお菓子ですよっ。
止まるわけないじゃないですかっ。
これこそ、悪魔のお菓子ですっ!」
買ってきますっ、と子狸たちがくれた一本では足らずに、自分で店内から買ってくる。
「あげます」
と壱花はみんなにも配った。
倫太郎も一本食べてみながら、
「なるほど。
止まらなくなるな」
と呟く。
「このしゃりしゃりとした噛み心地もたまらないんですよ」
と熱く語ったあとで、壱花は左を見た。
そして、小首を傾げる。
「……なにか足らない気がしませんか?」
「なにかってなんだ?」
と倫太郎が訊いてきたが、
「いえ……なんだと問われてもよくわからないのですが。
なにかが」
と壱花は呟いた。
ライオンの前にいた冨樫が腰を上げ、壱花の方を見る。
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