そのへんでご容赦を……


「だいたい、高いんだよ、点数が」

とやりながら、文句を言ってくる斑目に、壱花が


「でも美園さんが言ってましたしね」

とまた言うと、倫太郎が突然、


「人間だろうがあやかしだろうが、長く生きているものの言うことには従うべきだな」

と言い出した。


 斑目が手にした赤い札の上から目を出し、窺うように倫太郎を見て言う。


「倫太郎。

 お前、さては、いい手が来てるな。


 壱花的ハイパーインフレを狙ってるだろう」


 倫太郎は答えない。


「よし。

 年長者の言うことには従うというのなら、うちのひいじいさんを呼ぼう」

と斑目は言い出した。


「うちのひいじいさんも長生きだぞ」

という斑目に壱花は訊いた。


「ひいおじいさまは、今おいくつなんですか?」


「105だ」


 いや、こんな時間に呼び出す気ですか。

 そっとしておいてあげてください……と思っていると、倫太郎が、


「ジジイをこんな時間に叩き起こすなよ」

と斑目に言う。


「いや、もう起きてるかもしれん。

 朝が早いからな」

と言いながら、斑目はまだ真っ暗な外を見る。


 まあ、お年寄りってそういうことありますけど。


 いくらなんでも……と思っていると、斑目は手を打ち、

「じゃあ、ジジイの方を呼ぼう」

と言い出した。


 どうやら、内田建設の会長を呼ぼうとしているようだった。


「でも、もう遅いですよ」

と壱花が言うと、今度は、


「いや、ジジイはまだ寝てないだろう。

 夜盗虫よとうむしだから」

と斑目は笑う。


 ひいおじい様が起きてこられる時間に、おじいさまがお休みになるということなのでしょうかね……。


 24時間誰かが起きている家なのだろうか?


 いや、同居じゃないか。


 などとくだらぬことを考える壱花の前で、斑目はスマホで電話していた。


「じいさん、そこらを走り回って疲れてから、鉄砲町まで来てくれ」

と場所を説明する。


「年寄り走らせんなよ」

と倫太郎が言い、揉めている間に、内田建設の会長、内田直弼うちだ なおすけが現れた。


 息を切らせて駄菓子屋に入ってきた、着物姿の小柄な直弼に、

「会長っ」

と慌てて壱花と冨樫が立ち上がる。


「おっ、お久しぶりでございますっ、会長っ」

と二人は会社モードになって頭を下げた。


 すると、倫太郎が、

「ちっ、たどり着いたか。

 仕方ない、うちのジジイも呼ぶか」

と言いながら、スマホを手にする。


 ひーっ!

「も、もうやめてください~っ」

と壱花と冨樫が懇願する。


 これ以上、かしこまらねばならない相手が増えて欲しくない。


 それに、内田建設の会長も一癖も二癖もありそうな食えないジイさんだし、倫太郎の祖父もそうだ。


 壱花は倫太郎を止めて言う。


「あの、誰も彼も花札に触ったら、吸い込まれそうな人たちなんで、やめといた方が……」


 助け出す人が増えそうなので、その辺で。


 そう壱花は訴えてみた。




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