なにかがやましいようだ……

 

「仕事もプライベートもまったく言うことを聞かない」

と愚痴のように言い出す倫太郎に、斑目が、


「そうか意外だったな。

 お前、そういう女が好きなのか」

とそこは友人っぽく呟いている。


「ともかく、この話はお前のところの役員連中にはするからなっ」


 ひーっ。

 その展開だと、どちらかと言うと、社長を守るために、私がクビになりそうなんですけどっ、と壱花が止めようとしたとき、


「斑目様、あなたが見られたその情報には誤りがあります」

という声が何処からともなくした。


 振り返ると、冨樫が茶碗ののった盆を手に立っていた。


 ひっ、と違う意味で息が止まる。


「わっ、私がやりますっ」

と慌ててそれを取る。


 お茶を出すのは木村か壱花の仕事だからだ。


 女性だからというより、それこそ、下っ端の一兵卒だからなのだが。


「お前、いつからいた」

と倫太郎に問われ、冨樫は、


「さっきからいましたけど。

 お話が白熱していて、どなたも気づかなかったようなので」

と言う。


 そして、斑目に向き直り、冨樫は言った。


「斑目様の先ほどの情報、誤りがあります。

 社長と風花がふたりでマンションから出てきたのではありません。


 私もいました」


「なにっ? お前もか」

とマジマジと斑目は冨樫を見る。


 斑目は、冨樫を見、壱花を見、倫太郎を見て、また壱花を見た。


「こんな誰とも付き合ってないみたいな純真そうな顔して、男二人を手玉にとっているとは……」


 いやいやいやっ。


「恐ろしいな、女。

 見た目では判断できないもんだ」

と斑目は青ざめ、呟いている。


 いやいやいやっ。


「汚れてんのは、俺と壱花たちじゃなくて、お前の脳内だろ」

と言ったあとで、倫太郎は斑目に言う。


「ところで、斑目。

 お前はなんで早朝、それを見てたんだ。


 お前んち、あの辺りじゃないだろう。

 何処から……」


「ああ、もうすぐ昼だな。

 邪魔しちゃ悪いからまた来るよ。


 じゃ」

と早口によくわからないことを言って、斑目は去っていった。


 彼の方がなにかがやましいようだ……。





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