いや、謎の札が多いので


 結局、みんなで絵を描き、花札をはじめることになった。


 参加するのは、壱花、倫太郎、斑目の三人だ。


 冨樫は、判定を出す人をやると言う。


「なんだ、判定を出す人って」

と斑目に問われ、冨樫は、


「いや、謎の札が多いので」

と言う。


「まあいいが。

 味方に甘い判定を出すなよ」

と言う斑目に冨樫は、


「別に味方じゃないので大丈夫です」

と言い放ち、倫太郎に、なにっ? と見られていた。


 ちなみに壱花は最初から冨樫が味方してくれるとは思っていない。


「でも、おかしくないか? これ。

 お前らの秘密を賭けてやるんだよな?


 二対一だぞ」

と斑目が壱花たちに文句を言ってくるが、


「いや、いまいち味方な感じがしないんで」

と倫太郎と壱花はお互いを手で示して言う。


「どんなカップルだ……」

と言われ、


「カップルじゃないです」

と壱花はすぐさま反論した。


「っていうか、これ、俺が勝ったら、どうしたらいいんだろうな?

 俺になんのいいことがあるんだ?」


「いや、自分が言い出したんだよな? この勝負」


 考えとけよ、と倫太郎が言う。


「わかった。

 勝負が終わるまでに考えよう」

と言う斑目に壱花が、


「でも、花札やるのはいいんですけど。

 いまいち、役がわかりません」


 謎の札が多いしな、と思いながら言うと、倫太郎が、

「そうだな。

 地方ルールもいっぱいあるしな」

と言う。


「点数も、うちのおばあちゃんちの方とか、かなり高いですよ」

と壱花が言うと、斑目は、


「高い方がいいな。

 盛り上がるじゃないか」

と笑って言った。


「えーと、確か、猪鹿蝶で300点です」


「ほう。

 景気のいい点数だな」

と斑目が言い、


「待て。

 そもそも、この花札、いのも鹿も蝶もいないぞ」

と札を見ながら、倫太郎が言う。


「じゃあ、それっぽいので300点ってことで」


 そう壱花が言うと、それっぽいのってなんだ、という顔を冨樫がした。


「あ、あと、俺が描いた虎は300点な。

 上手いから」

と斑目が自分が描いた札を指に挟んでヒラヒラとさせる。


 確かに上手い。

 今にも竹林から飛び出してきそうな表情の――


 いや、ほんとうに飛び出してきそうで怖いんだが……、水墨画のような感じに描かれた虎だ。


「上手い下手で点数決めるなよ」

とそれを聞いた倫太郎が言い出す。


「だったら、壱花の札はマイナスになってしまうじゃないか。

 可哀想に」


 可哀想にって、貴方がマイナスだと決めつけてるだけなんですけどね……と壱花が思っているうちに、あやかし札だらけの百鬼夜行花札が始まった。




 壱花に配られた札の中にあの狐の札があった。


「化け化けちゃんっ。

 さあ、僕を使ってっ」

と花札がはじまって、しゃべれるようになったのか、高尾が言ってくる。


 ……ありがとうございます、高尾さん。


 でもあの、そこで、しゃべられると、私の手にあなたがいることがバレてしまうのですが。


 そして、低い点の上に、ちょっと役もできないそうにない札っぽいのですが。









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