だいたい500文字小説

シメ

沼地の王

 沼地の王はひとりぼっちだった。


 何百年もずっとそうだったから、王は孤独には慣れっこだった。一週間に一度泥を食べてあとは眠っている。自分しかいない世界でぼんやりと過ごしていた。


 しかし、とある夜に満月を見ていると、なんだかやたらと自分がちっぽけな存在に思えた。沼地の王だけど、この沼のことしか知らない。配下もいない。そもそも沼から出られない。


 月が笑ってる気がしたから、王は手元の泥を投げつけた。でも泥はべちゃりと地面に落ちただけだった。王はそれを拾うことすらできない。沼から出られないから。


 王はくやしくて大きな声で叫ぼうとしたけど、声の出し方も忘れていた。身体を色んな形にして試行錯誤した結果、気泡の弾ける小さな音が鳴った。


 ここまで惨めなら、いっそ死んでしまおう。王は沼の端へ身体を寄せ、固い地面へゆっくりと上っていった。確かこうすれば死ねるはず。理由は忘れたが、本能で覚えていた。


 そして王が身体を全て地面に投げ出してから時間が経った。王は意識を失っていた。


 だが、雨が王の身体に降り注いだ途端に生を実感した。苦しみ、悲しみ、苛立ち。そんな気持ちが身体を巡った。


 王はまた小さく叫んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る