水の中のキツネ
水を両手ですくってみると、小さなキツネを見つけた。
水の中に住むキツネなので、身体は透明だった。ほんのりと白っぽい。
たくさん食事をしたあとらしく、身体は水風船のようにまんまるく膨らんでいた。キツネを左手に乗せて右手でつつくと、ぷるぷると身体が震えた。そしてくうんと小さく鳴いた。
この川にはもうキツネはいないと聞いてたけど意外といるもんだなあ。
キツネはぴちゃぴちゃと水音を立てながら、短い足で私の腕を登り始めた。ひんやりとして気持ちいい。私は腕を動かし、登りやすいようにと坂を緩やかにした。キツネはマイペースに進む。
肩まで辿り着くと、キツネは私の頬に右前足をあて、さすりだした。まるで撫でてくれているようだった。
飼いたいなあ。
冷たい足の感触を感じながら、そんなことを思いはじめた。しかしキツネは生まれた水辺から離れられないと聞く。知らない水は身体に合わないらしい。水道水や海水、住処の遠くの川の水に入れられて少しづつ溶けていくキツネの動画はネットで見たことがある。
ごめんな、と思いながら触ろうとしたら、キツネは川へと飛び込んだ。小さな水音が鳴る。
残ったのは頬の水滴だけだった。
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