□フエフキコ

 フエフキコという作家がいる。


 彼女はインターネットで不定期に短編漫画を公開していた。その作品群はどれも陰鬱で絶望と焦燥感に包まれていた。作中では平気で主人公が人を殺したり殺されたりしていた。だが不思議と読んでいると心が落ち着くのである。


 わたしのように彼女の作品に魅せられた人はとても多かったようで、彼女のTwitterアカウントのフォロワー数はいつしか五桁になっていた。だが、不思議とほとんど彼女の作品にリプライがつくことはなかった。


 彼女はプライベートの話どころか、漫画以外のものを公開していなかった。ハンドルネームと漫画。プロフィールも「.」だけで済まされていた。


 わたしは彼女がどんな人物か知りたくなった。検索エンジンの力を借りて情報捜索に時間を費やした。しかし誰かに直接尋ねることはしなかった。


 一週間ほど調べたところで彼女の正体がわかった。まったく画風も作風も違う作品を連載しているそこそこ有名な漫画家だった。


 調べ終わったと感じたわたしは調べたデータや証拠を全て捨てた。紙もデータも全部。


 フエフキコは今日も意味もなく人が殺される漫画を描いていた。きっと優しい漫画を描きながら。

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