カルディ

「マシュマロとドーナツならどっち食べたい?」


 ふわふわの部屋着に身を包んでソファに寝転んだ女が言った。


「マシュマロ」


 ソファのそばに座っている男はテレビの画面から目を離さずに返事をした。テレビには古い映画が映っていた。あとから効果音を足した無声映画のコメディだった。


「それおもしろい?」


「おもしろいよ」


 画面の中で男女がドタバタを繰り返す。その度にコミカルな効果音が鳴る。


「今からあのお店……店頭でコーヒー配ってる輸入商品店……カルボナーラ……じゃなくて」

「あそこね」

「わかった? 今からそこ行かない?」


 少し悩み、男はリモコンを操作して映画を一時停止した。


「行くかな」


 立ち上がってクローゼットのある方へ歩いていく男を見て、女も慌てて支度しようと立ち上がった。その足取りは軽かった。


「久々のデートだ」


 クローゼットの前で女は満面の笑みを浮かべた。


「そんなに久々?」

「一ヶ月ぶり」


 そう言いながら女はこれじゃないと服を着ては脱ぎ、あれじゃないとアクセサリーをつけては外していた。


「だからおめかしするの」


 男に見せつけるように女はロング丈のワンピースの裾を持ってくるりと回った。


「最近はデニムにTシャツばかりだったしね」


 女が横を見ると、男の方はタイトなデニムに柄シャツを合わせていた。


「流行りって感じの服」

「おしゃれだろ?」


 男はわざとキザに腰に手を当てたポーズを取る。


「おっしゃれー!」


 笑いながら女は男に抱きついた。


「さて、行きますか」


 男はそれを流してそのまま進みだそうとする。


「このまま外歩いていい?」


 男から手を離さずに引きずられる女は言った。


「ダメ」


 男は女をふりほどいてポケットにスマホと財布をねじ込んで玄関に向かった。


「待って待って」


 女もお気に入りのポシェットにスマホと財布とハンカチとポーチと鍵を入れて駆け出した。

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